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03.12
Tue
マックスは苛々としながらシンガポール支店の重役達と夕食を取っていた。
もちろん表情には出していない。

オーチャードロード沿いの有名店の個室でシンガポール料理を振る舞われたが、全くおいしいと思えない。
彼らはマックスをもてなし、喜ばせるためにここに案内したのだろうが、全く意味が無かった。
しかしマックスは彼らの気持ちを汲んで、素晴らしいとか、おいしいと言って、料理を喜んでいる振りをした。
だが体は正直なもので、進んでフォークを口に運ぶ気にはならなかった。

彼の頭の中は、今日のキャサリンの事でいっぱいだった。
彼女は今日、明らかにマックスを避けていた。
朝食に誘ったが断られ、不動産確認の際もマックスの話し掛けに対して言葉は少なかった。
昼食時はピピコムのスタッフに囲まれて、彼女と話すことは出来なかった。
それに、彼女はちらりともマックスを見ようともしなかった。

彼は訳が分からずムッとしたが、仕事中なので彼女の態度もうなずけると思い、一旦は納得した。
しかしその後も変わらず、彼女は無口で大人しい。
彼も他のスタッフの手前、2人だけの時の様に彼女に問いかける事も出来ずにいた。

しかしとうとう、彼女の帰り際に無理を承知で夕食に誘った。
彼女の言う通り、ピピコム社内の機密について話題になる事があるので、彼女をその席に同席させるのは勧奨されるべき事では無いが、そんな事はどうでもいいと思った。
だがそれも彼女に断られた。
彼女はマックスとの会話を打ち切ろうとしている事を、はっきりと態度で示した。

マックスは、そんな扱いをされる事に慣れてはいない。
今まで彼が気に入った女性は、彼に誘われると喜んでそれに応じた。
いや、気に入っていない女性であろうが男性であろうが、彼からの誘いをキャサリンの様に迷惑そうにする者などいなかった。

この出張を決めた時もそうだ。
彼女は用事があると言って、当初断った。
シンガポールに着いてから、ドレスをプレゼントすると言ったのも断られた。
気の収まらないマックスはネックレスをプレゼントした。
それも彼女は受け取ろうとしなかった。
普通の女性なら、その時点で喜んで受け取っていただろう。

実際、マックスの周りにはそういう女性が多かった。
今まで付き合ってきた女性たちは、マックスからの贈り物を喜んだし、彼と付き合う事で得られる贅沢な生活と、周囲から敬意を払われる事に自尊心を満足させていた。
彼女たちにはっきりと物をねだられる事もあったが、マックスはその事を気にした事は無かった。
彼には、彼女たちに分け与えても余りある財産があった。

今までのキャサリンとの付き合いで、彼女はマックスの金や権力に興味がなさそうだと言う事が、彼には分かって来ていた。
だが彼は、彼女が彼の事を嫌っているとは思えなかったし、彼に好意を抱いているだろうと思っていた。
何故なら彼女は、シンガポール出発前の会話でも楽しそうにしていたし、2人でいる時は屈託がない。
拒んだネックレスも最終的には受け取った。
その時はとても、嬉しそうにしていたのだから。

マックスにはそんな彼女が、何故彼を避ける様な態度を取るのか分からなかった。
何か理由があるはずだった。
キャサリンには出会った当初から、気持ちを乱されている。
こんな風に女性に振り回される事は初めてだった。

――彼女はいつもそうだ、僕をてこずらせる。
  いったい、何の用事があるって言うんだ。

彼は彼女が夕食を断る理由に挙げた、したい事とは何なのか、気になって仕方が無かった。
彼女はシンガポール出発前に今週末に用事があると言っていた。
あの時、マックスが彼女に何の用事か尋ねても彼女は答えようとしなかった。
その事だろうか、と思う。

マックスは経験から、彼女が嘘のつけない正直者だと感じている。
今までも彼女はマックスの不躾な質問に、怒りながらではあったが正直に答えている。
怒った彼女は愛らしかった。
その彼女が、マックスに言えない用事とは何だろうかと思う。
彼女の部屋で見たスティーブの写真が、ふとマックスの頭に浮かぶ。

CEO、と声を掛けられてマックスは我に返った。
どうやら皆の話に相づちを打つのを忘れて、暫く黙り込んでいたらしい。
テーブルに座っているシンガポール社の社員達が、心配そうにマックスの顔を窺っている。

「お加減でも悪いのですか?」
ミス・ヤンが口を開いた。

「いや、少し考え事をしてしまっていた。すまない、心配ないよ。ああ、そこの海老料理、
 取ってくれるかな」

マックスは社員たちをごまかす様に、ミス・ヤンに取り分けてもらった海老料理を口に運んだ。
複雑な香辛料の味がする海老など、どうでも良かったが、おいしい、と言ってもう二口、三口ほうばる。
しかし、先程浮かんだキャサリンの、別れたボーイフレンドの事が頭を駆け巡る。

突然マックスの頭に、マックスに言えない週末の用事とは彼と会う事では無かったのだろうか、と閃いた。
キャサリンの今日の用事とは、シンガポール出張で会えなくなったために、その彼に電話を掛ける事では無いだろうか、と瞬時に想像が結び付く。
時差を考えれば、そんな事は馬鹿な想像だと分かるのだが、胸に広がる黒い靄は拭い去り難い。

「済まないが皆、僕はどうしても片付けなければならない用事を思い出した。悪いが失礼するよ」

会はまだお開きには早過ぎる時間だったが、もうマックスには耐えられなかった。
そう、彼女にはとても長く待たされてきたのだ。
マックスは、忍耐強く自制心を持って彼女に接して来た。
これ以上は耐えられない。




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