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03.12
Tue
部屋に戻ると彼女は今日の資料をまとめた。
会社への報告は夜にする事に決め、服を着替える。
Tシャツにジーンズ、斜め掛けの鞄という、観光ルックだ。
キャサリンは独りで観光地に行くのは不安だったが、シンガポールは安全な街だと言う事だから大丈夫だろう、と考えた。
それに怖くても独りで行くしかない。

ロビーに降りると地下鉄の駅をフロントで確認する。
シンガポールは小さな国に交通網が発達していて、特に観光客が利用しやすいのは地下鉄だと、ミス・ヤンに教えてもらった。バスは行き先や路線の確認が、慣れていないと分かりにくいらしい。

キャサリンはタクシーを使う事も考えたが、現地の雰囲気を楽しみたいので地下鉄を利用することにした。
異国の地下鉄に乗るのは緊張するが、駅はすぐに見つかった。
タッチパネル式の自動券売機でチケットを買い、マリーナ・シンガポールに接続している駅から一駅移動し、ノース・サウス線に乗り換えてシティ駅で下車する。

地下鉄は、ミス・ヤンに聞いたとおり簡単だった。
駅を出ると目の前に緑の芝生に囲まれたセント・アンドリュース教会の白いゴシック建築がある。
その姿にキャサリンは感動したが、こちらは後のお楽しみだ。
まずはミス・ヤンお勧めのプラナカン博物館を目指す。
シティ駅から徒歩で少しのところにある。

キャサリンは街路樹が植えられ、きれいに整理させた道を歩いた。
不動産物件の確認のために車で移動した際にも感じた事だが、シンガポールは都会的で美しい街だ。
その街の中に突然、歴史的建築物が、時には清楚に、時にはカラフルに立ち並んでいる。
それらが違和感無く存在している景観は、なかなか興味深い。

大きな通りを曲がり、少し細い道に入る。
プラナカン博物館は道路に面して建っており、白くて壮麗だが、想像よりこぢんまりとした造りだった。
プラナカンとは、シンガポールが古くから交通の要所として栄えたために多くの中国系移民が移り住み、現地のマレー系住民と交わって生まれた混血の人々の事だ。
彼らは多くの異文化を取り入れて独自の文化を作り出し、その精神は、後にイギリス植民地になっても受け継がれ、西洋の文化をも受け入れた。そして、現在の西と東をあわせたシンガポールと言う国が生まれたのだ。

キャサリンはプラナカンの文化に触れ、ビーズ刺繍の美しさに目を見張った。
ニョニャと呼ばれるプラナカン女性のテーブルウェアもカラフルで愛らしい。
こんな陶器がキッチンにあれば楽しいだろう、と思う。

テーブルウェアをうっとりと見ていると、同じようにショーケースを覗き込んでいた観光客らしい中年女性に、きれいね、と声を掛けられた。
キャサリンが本当ですね、と答えると彼女は、こんなのをキッチンで使いたいわね、と言った。
同じ事を思う人がいる事が嬉しくて、キャサリンはにっこりと笑って、本当に、と答える。
彼女はキャサリンに微笑み返して、良い旅をと言い、去って行った。
キャサリンは小さな出会いと会話に、心が温かくなった。

次は、アルメニアン教会に向かう。
アルメニアン教会はプラナカン博物館のすぐ傍にある。
こちらはシンガポール最古の教会で設立は1,830年代。
最初に観たセント・アンドリュース教会ほどの広さの敷地では無いが、緑の芝生に囲まれて真っ白な教会が建っている。たくさんの大きな柱に支えられた白い尖塔がシンガポールの青い空に映えている。
キャサリンは、荘厳と言うより可愛らしさを感じさせる教会内部を見学し、敷地内を散策した。

独りでの観光地巡りは寂しいかと思ったが、今回の旅で、彼女は独りの方がゆっくりと自分の見たいものを見られることに気が付いた。
それに楽しい出会いもある。

――独り旅もなかなか、悪くないわね。
キャサリンはそう思い、うきうきとしながら歩いた。
彼女と同じ様に、独りで歩いている観光客らしき人を見かける事も、その思いを後押しする。
その後、セント・アンドリュース教会まで戻る。

セント・アンドリュース教会の、白く荘厳なゴシック建築と空高く伸びる3つの塔、緑の芝生との対比に見とれていると、タキシードを着た男性とウエディングドレス姿の女性が目に入った。

結婚式をしているのかと思ったら、招待客はおらずカメラマンとスタッフだけが写真撮影をしている。
その他の周囲の人は観光客の様だ。
どうやら雑誌の撮影らしい。
偽物のカップルだが、幸せそうに微笑み合う姿に先程感じた独り旅の良さが、キャサリンの中で急速にしぼんだ。

彼女は独り旅もいいけど、気の合う友人との旅はもっと楽しいだろう、と思ってしまった。
それが気の合う恋人なら尚いいのに、と思い、マックスの顔が浮かんだ。
慌てて彼の顔を頭の中から消し去る。

セント・アンドリュース教会の内部を見学して、敷地内の石段で一休みし、地図を広げる。
できれば今日中に、ラッフルズホテルと、アラブ・ストリートにあるサルタン・モスクに行きたくて道を確認する。

こんな時、携帯で位置確認ができないのは辛い。
正確には、携帯電話を海外でも使える様にアメリカ国内で契約してきていたが、使うと使用料がとても高額になるためあまり使いたくないのだ。
観光客向けにシンガポールには、事前に登録しておけば無料でネット回線を使えるスポットもあったらしいが、入国した際にはその事に気付かず登録をしていないので使えない。
地図を見ながら暫く悩んだあと、キャサリンは意を決して、近くを通った白人の老夫婦に道を尋ねた。

老夫婦は親切にラッフルズホテルまでの道と、サルタン・モスクまでの道を教えてくれる。
サルタン・モスクまで行くつもりなら途中のブギス・ストリートが面白いから寄るといいよ、と教えてもらい、道順も聞く。
親切な人に出会えて、キャサリンはまた嬉しくなった。
せっかく聞いたサルタン・モスクまでの道順は、ブギス・ストリートへの道を聞いたため分からなくなってしまったが、また近くで聞けば何とかなる様な気がした。
彼女はとりあえず、白亜の宮殿と名高いラッフルズホテルを目指した。




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