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02.06
Wed
3週間後、
「なかなかおいしいワインね」
キャサリンは友人のナタリーの家で居間に座り、グラスに注がれた白ワインを飲みながら言った。

「でしょ。チリワインなんだけど、近所の酒屋さんのお勧めで買ってみたら気に入っちゃって。それ、
 1本15ドルなのよ。なかなかリーズナブルでしょ」
ナタリーはキッチンで片手に自分の分のグラスを持ち、もう片方の手にナッツの袋を持ちながら、おしりで冷蔵庫のドアをバタンと閉めた。彼女はナッツ類を湿気らないように冷蔵庫に入れておくという、ちょっと変わった癖を持っている。

「さぁキャシー、スティーブと別れるなんて。何でそんなことになったのか、聞かせてちょうだい」

ナタリーは高校時代からの友人だ。
ナタリーは大学に、キャサリンは専門学校に進んだ後も友人関係は続いた。
その後、別々の企業に就職したが、キャサリンと同じくニューヨークで働いていた。
今でも何かあるとお互いのアパートを行き来する仲で、二人の間には秘密は無かった。

今週の火曜日に、ナタリーからいつもの電話がかかってきた。ある一定の期間が空くと、どちらからともなくお互いが相手に電話を掛けるのだ。
その時、キャサリンはナタリーにスティーブと別れたことを告げた。
すると、ナタリーは会って話を聞く必要があると言い出した。
金曜日にと言われたがその日はキャサリンに先約があったため、土曜日の今日にナタリーのアパートに遊びに行く約束をしたのだった。

「・・・3週前の金曜日に、スティーブが久しぶりに会いたいっていうから、クィーンズに新しくできた
 (青いドア〉って店に行ったの」
キャサリンはワイングラスをくるくると揺らしながら、きまずそうに話し出した。

「わぉ!なかなか予約が取れないって評判よ。スティーブにしては気が利いてるわね。どう、素敵なお店
 だった?」
明らかにいつもより元気のないキャサリンを元気づけようとしているのか、これから伝えられる話の暗さをなんとかごまかそうとしているのか、ナタリーは明るく受け答えをした。
キャサリンの斜め向かいのソファに座った彼女は、自分のグラスにチリワインを注ぎ、ブルネットの髪を揺らしながら一口ワインを飲む。
「ん、おいし!」

「お店はすごく素敵だったわ。料理もおしゃれでおいしかったし。予約が取れないだけあって、その日も
 満席だった」
キャサリンはそこで言葉を切った。
ナタリーは、今度はナッツを口にいれながら興味津々といった目で先を促す。
「で?」

キャサリンは観念した。ふぅっ、と溜息をつくと続ける。
「で、すごく素敵な料理が済んで、すごく素敵なデザートを食べている最中に、彼に『もう無理だ』って
 言われたの」
「もう無理って、それだけ?」

ナタリーの問い掛けに、キャサリンは首を振った。
「それ以外にも『君も分かっていただろう』とか、『僕たち距離ができすぎた』とか言われたわ」

「・・・なんて奴なの。何よその言葉! 私は前からスティーブは優柔不断なところがあるって思ってた
 のよ!」
別れ話を切り出された当の本人のキャサリンより、ナタリーの方が怒りでカッカとなっている。
イタリアの血が2分の1入っているナタリーは感情が豊かだ。彼女がこういう裏表の無い前向きな性格のため、二人の友情はこれだけ長続きしたのだろう。

「・・・スティーブは優しい人なのよ」
キャサリンは伏し目がちに言った。

ナタリーは傷ついているのはキャサリンの方だと気づき、
 「ごめん、キャシー、言い過ぎたわ。でもあなた、そんな事を言われて何も言い返さなかったの?」
と高校以来の、少し引っ込み思案な所のある友人に優しく訊ねる。

「もちろん、言い返したわ。というより私、最初彼が何を言っているのか意味が分からなかったの。彼が
 シカゴに転勤になってから会う時間が減っていたから、そのことを言っているんだって思ったのよ。だ
 から、お互い仕事が減ればこれからはもっと会えるって彼に言ったら、彼、違うってはっきり否定し
 て・・・。それからは頭が真っ白になってしまって・・・」
キャサリンは、ソファにあったクッションを一つ抱えながら、母親に言い訳をする子供の様に答えた。

「私、間抜けなことに、彼のその言葉を聞くまで、もしかしたら彼は私にプロポーズするんじゃないかって
 考えてたのよ。だって、私たち5年も付き合ってたし、スティーブが珍しくおしゃれなお店を予約してる
 し」
キャサリンはそこで言葉を切ると、一番言いたくない言葉を言った。

「私もう、33歳なのよ。結婚していてもいい頃だって、スティーブも気づいてくれてるって思ってたけ
 ど、違ったみたい」

つらい真実を一気に言うと、キャサリンはグラスのワインをぐっと一気に飲み干した。
ナタリーは、友人が泣き出すんじゃないかと心配して、ティッシュを何枚か取ってそっと渡す。
 
「いいの。大丈夫」
キャサリンはティッシュを断りながら、ナタリーの優しさが嬉しかった。
私の友人は薄っぺらい同情の言葉をかけたりなんかしない、と思った。

「スティーブと別れて、悲しくてたくさん泣くだろうと思ってたけど、自分でも不思議なことにあんまり
 悲しくないの。それよりスティーブと過ごしたこの5年間はなんだったのかなって、スティーブにとって
 私と過ごした5年ってあっさり捨てられるものだったのかなって、そればっかり考えてしまって。だって
 彼、好きな人でもできたのかって聞いたら、『どう思ってくれてもいい』って答えたのよ。私にどう思わ
 れてもいいと思うなんて。そんな風に私のことを思っているなんて。私って、スティーブにとってどうで
 もいい存在になっちゃってたんだわ。そのことに気付いちゃって。・・・なんていうか、自信喪失ね」

ティッシュを断ったが、一気に思いの丈を口にしたキャサリンの瞳は少し潤んでいた。
本当は彼女の心の中には、スティーブのこと以外にも悲しみがある。
でも今ナタリーにそれを伝えるわけにはいかない。




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