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03.09
Sat
キャサリンはマックス、ミス・ヤンと市内のオフィスエリアにある2物件を内覧し、昼食はピピコム・シンガポール社員たちと一緒に取った。その後も、ミス・ヤン同席でシェントン・ウェイのビルの開発計画についてオーナー会社を訪れ、計画について聞いた。

マックスはこの計画に非常に興味を持っている様だった。
計画段階から賃貸を決めておけば、室内の改造や専有面積についてこちらの要望を取り入れさせることができる。
これは大きな利点だ。
それに立地も良かった。
マックスの反応から、キャサリンはこの物件でほぼ決定だろうと思った。

W&Mがピピコム社の信頼を勝ち得た場合、建物の改造時から始まる交渉はとてもやりがいのあるものだろう。キャサリンはあと少しで退社するため、その業務に関わることは出来ない。
彼女は今更ながら、このプロジェクトに参加できないのは名残惜しいと感じた。
だが父の看病をする事と、秤にかけることはできない。
彼女は納得をしていた。

この日、彼女が心配していた様にマックスと2人きりになる事は無く、彼女は終始無口でいる事を徹底したため、マックスと会話することはほとんど無く済んだ。
マックスに話し掛けられる事があっても、彼女は返答を少なめにするよう心掛けた。

キャサリンの読み通り、15時前にはホテルへ帰れる事になった。
ミス・ヤンがキャサリンを送ろうとしてくれた時に、マックスが話し掛けて来た。

「今晩の夕食はどうされるんですか? ミス・パーカー」
「・・・そうですね、独りでホテル内をぶらぶらするつもりでしたが」
キャサリンは、彼の言葉に夕食に誘われる事を懸念した。

「ミス・ヤン、今晩、僕たちはシンガポール社の重役と懇親会を兼ねた夕食だったが、どうだろう、彼女も
 同席して貰っては?」
マックスはミス・ヤンに問い掛ける。
やはり誘われた。

ミス・ヤンが、何か言おうとして口を開きかけたが、キャサリンはそれを制して言った。
「いいえ、その様なお気遣いは無用ですわ、ミスター。社内の重役の方々とのご夕食でしたら、私の様な部
 外者が参加すると、お話合いできない事もあるでしょうし、それではご迷惑になってしまいます。今回は
 ご辞退させていただきます」

「・・・しかし、わざわざシンガポールまで来ていただいているあなたを、独りで食事させるわけにはいき
 ませんよ。ミス・ヤン、調整できるね」
マックスは言ったが、キャサリンは、今回は何としても断るつもりでいた。

「いいえ、ミスター、お気持ちは大変嬉しいですが、それではご迷惑になりますわ。ピピコム社の方々には
 大変良くして頂いて、とても嬉しく思っています。これ以上お気遣いいただくわけには参りませんわ。そ
 れに、今晩は少し、したい事がありますので」
彼女は重ねて断った。
用事があると言えば、彼もこれ以上は誘ってこないだろう。

「そうか・・・、用事があるのなら仕方ないね。では明日は? 明日はどこか観光に行きませんか?」
キャサリンの予想通り、彼は今晩の夕食は諦めてくれたようだが、今度は明日の観光に誘われてしまった。

彼と2人きりになるつもりなど無いのに、それはもっと困る。
彼女は表情を曇らせたまま、言った。

「しかし、CEOは明日、ご先約があるとおっしゃっておられましたよね。ご無理をさせる訳にはいきませ
 んわ。ああ、ミス・ヤン、申し訳ないけどホテルまで送っていただけません? CEOの貴重なお時間を、
 これ以上使ってしまっては、悪いわ」
彼女は会話を断ち切ってミス・ヤンを呼んだ。

マックスは何か言いたそうに開いた口を閉じ、ミス・ヤンにキャサリンを送るように言った。





ホテルまでの車中、ミス・ヤンが明日の予定を聞いて来た。
明日は日曜日で一日フリーだ。キャサリンは彼女に独りで観光をするつもりだと言った。ミス・ヤンは案内を買って出たが、キャサリンは丁寧に断った。休みの日まで仕事をさせるのは申し訳ない。
その代わりに、今日行こうと思っている場所への行き方と、近くの観光スポットを聞いた。

ホテルの前に着くと、ミス・ヤンに贈ってくれた事のお礼を言った。
彼女は帰国の時も空港まで送ってくれることになっている。これで会うのが最後では無いが、キャサリンの送り迎えは彼女には余分な仕事だったはずだ。
きちんとお礼を言っておきたかった。

「あの・・・」
ミス・ヤンが別れ際の握手の際に、戸惑う様な表情をしながら言った。
「・・・?」
キャサリンは彼女の様子に、無言で首をかしげた。
「よろしかったんですか? 今晩のご夕食・・・」
彼女はちらりと視線を下に向けながら、キャサリンに聞いてきた。

キャサリンには彼女が何を言いたいのか分かった。
先程のマックスとのやり取りについて、彼女は訝しんでいるのだ。

マックスがあんな風にしつこくキャサリンを誘ったこと、キャサリンがそれを無視する様に断って車に乗ったことについて聞いているのだろう。
確かにさっきは、少し強引だったかもしれない。
そのことでピピコム・シンガポール支社の社員の、要らぬ注意を引いてしまったかも知れなかった。

「ああ、いいのよ。みなさんのお邪魔をするわけにはいかないし、済ませたい事もあるの」
キャサリンは、なんでも無いというように、言った。
そう、何でもない事なのだ。

「・・・そうですか」
ミス・ヤンはそれ以上、深く聞いては来なかった。
当然だろう。
良識あるキャリアウーマンなら、そんなに突っ込んで質問して来る訳が無い。

キャサリンは微笑むと、彼女に月曜日の朝の迎えの時間を聞いた。
そしてもう一度、さよならを言った。




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