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03.06
Wed
キャサリンは肩に掛けられた上着から伝わるマックスの優しさに、眩暈にも似た困惑を感じていた。

こんな事を彼にさせてはいけない。
こんな親密な行為は、いけない。
彼女は自分のために、彼の上着を肩から外し、彼に返そうとした。

「これは気付かなかった。さすが、ミスター・コナーズは良くお気付きになる。ミス・パーカー、
 せっかくですからお借りになってはどうですか。きっとあなたも、億万長者になれますよ」
経済会会長が冗談を言うと、一同はどっと笑う。
会長の言葉に、億万長者になれるのなら自分もその上着を借りたい、と言う者もいた。
また全員が笑った。

キャサリンはマックスにもう一度上着を肩に掛けられて、一緒に笑った。
彼の上着からは、彼のぬくもりと匂いが発せられている。
まるで彼に包まれているようだ。

彼女は胸をきゅっと締め付けられるような、甘美な感覚を覚えた。
そして、その感覚を打ち消すために、こんな完璧なエスコートは困るのだ、と思った。

その後も少し展望ゾーンを散策し、一同はエレベーターに乗ってロビーまで降りた。
そこで会長達とはお別れだ。
丁寧に挨拶をして、会長達はカジノへと向かった。

「送るよ」
2人きりになると、マックスはエレベーターのボタンを押して言った。

キャサリンは黙ってうなずいた。

エレベーターの中で2人は無言だった。

キャサリンの部屋のある階にエレベーターが着くと、彼女はマックスにありがとう、と言ってエレベーターから降りようとしたが、彼は部屋まで送ると言って、一緒に降りた。
彼女の部屋の前まで着くと、マックスは口を開いた。

「僕の部屋でもう少し、一緒に飲まない?」
「・・・ごめんなさい。今日はもう、疲れたわ」
「そうか。食事の時もアルコールを飲んでいなかったけど、体調が悪いのかな?」
「いいえ、大丈夫よ」
「本当に? 顔が少し青白いよ。それに元気が無い」

彼は心配そうな顔をする。

「本当に大丈夫。元気が無いのは時差ボケのせいよ、・・・寝たら治るわ。これ、ありがとう」
そう言ってキャサリンは彼の上着を返した。

「おやすみなさい」
「・・・おやすみ」

彼女は、マックスが立ち去るのを見送らずに部屋のドアを閉めた。
閉めたドアのこちら側で、彼が立ち去る足音に耳をそばだてる。

しかし残念ながら、廊下に敷かれているカーペットのせいで足音は聞こえない。
キャサリンは大きく溜め息をついた。
そして彼の上着の掛かっていた肩をさする。

彼は、魅力的過ぎる。
彼に惹かれている事を、もう認めない訳にはいかなかった。

入り口に備え付けてある大きな鏡で、彼女は自分の姿を見た。
その首には、マックスにプレゼントされたネックレスが輝いている。
彼女はそっと、それに触った。

彼はこんな高価なものを簡単に贈れるぐらいにリッチで、ハンサムで、仕事もでき、若い。
それに比べて彼女は彼より5つも年上で、何の魅力も無い。

キャサリンは自分の年齢を考えずにはいられなかった。
彼の様な男性に釣り合うとは、到底思えない。

彼女は分不相応な恋をして、彼を追いかけ回す様な無様な真似をしたくないと思っていた。
だから彼の優しさが、嬉しいが嫌だった。
金持ちや権力者特有の傲慢さが無い事も。

しかしそれは、自分の方の問題なのだ。
キャサリンはクローゼットに向かって歩きながら、ネックレスを外した。

若い娘の頃の様に、恋に夢中になれれば楽なのだろう。
何も考えずに、目の前の魅力的な男性の態度と言葉に、どきどきと胸を躍らせればいい。
そして、彼に少しでも優しくされたら、がむしゃらになって彼を追い掛けてしまえばいい。

うっすらと覚えている彼と体を合わせた記憶のために、マックスをより親密に感じてしまうのだ、とキャサリンは思った。
あの夜が無ければ、たとえマックスと知り合っていたとしても、取引先の魅力的なCEOとしか思わなかっただろう。
こんな風に意識し過ぎる事は無かったはずだ。

――あの夜は無かった事にして、友人として振る舞う筈だったじゃないの。
彼女は当初の決め事を思い出した。
自分への戒めのように。

――カンチガイシチャ、イケナイ。

キャサリンはもう一度肩をさすると、ドレスを脱ぎルームウェアに着替えて、故郷の父に国際電話を掛けた。
時差は調べてある。
向こうはちょうど前日のお昼前のはずだった。



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