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03.06
Wed
彼は本当に困っているようだった。
キャサリンは、あまりにも自分が意固地になっている事に気が付いた。
マックスの言動を意識し過ぎて、礼儀に欠けている。
彼は受け取ろうとしない彼女に困って、お願いという言葉まで付けているでは無いか。

「ごめんなさい、私、プレゼントを貰う事に慣れていなくて。素直じゃ無いわね・・・」

ネックレスの値段は、キャサリンには手の届かない金額だ。
そのことは昼間ショーケースに並べられているネックレスを見た時に、良く分かっていた。
そんな高価な物をプレゼントしてもらう事に気が引けるし、どう考えても受け取るべきでは無いのは分かっているが、ネックレスはとても魅力的だった。
彼女はマックスの説得に後押しされて、その魅力に負けた。

「ありがとうマックス、すごくうれしいわ」
キャサリンの顔が自然とほころんぶ。

彼は満足げに頷くと、さぁ行こう、と言って黒いジャケットを羽織って身だしなみを整えた。
黒いスーツに黒色のシャツを合わせたマックスは、恐ろしくセクシーだ。

「すごく良く、似合っているわ」
彼女はのどの渇きを覚えながら、自分の感情より控えめに言った。

「ありがとう」
彼は少し微笑みながらさらりと言う。
賛辞の言葉など無くても、彼は自分の魅力を良く知っている様だった。

2人は部屋を出て最上階のレストランへ向かう。
エレベーターを出ると、このホテルの目玉であるプールが目に飛び込んでくる。
空に浮いているかの様に見えるプールは、圧巻だった。

2人が屋上の展望ゾーンへ到着した時に、街はちょうど日没を迎えた。
夕焼けに染まるシンガポールのビル群が、遮るものなくパノラマに広がり、プールの表面が朱色に染まって、まさに絶景だ。周囲の観光客からも、おおー、という感嘆の声が上がる。

キャサリンは今日一日でシンガポールの朝焼けと、夕焼けの両方を見られた事に感動をした。
日が落ちると周囲は急速に暗くなり、夜景が瞬く。
手の届かない宝石箱が、そこに現れた。

しかし美しい風景に心を奪われている時間は無い。
彼女は隣にいる素晴らしいエスコート役の男性とこの風景を楽しむ想像に心を動かされたが、その誘惑を断ち切りながら、展望ゾーンの更に上の階にあるレストランへ歩を進めた。





素晴らしい夜景を見ながらの会食は、スムーズに進んだ。
シンガポール経済会会長と運営局長、青年会長の3人が同席し、シンガポール及び東南アジア経済の今後についてが話題の中心になった。
ピピコム側は、CEOであるマックス、シンガポール支店長、他社ではあるがキャサリンが出席した。
シンガポール経済会の出席者は皆、中国系シンガポール人で、キャサリンはシンガポール経済の中心が中国系の人々で占められていることを知った。

店内は話題のスポットであるため、観光客やビジネスディナー、恋人たちでごった返していたが、彼らの席はそれらと隔たれたVIP席だった。
マックスはシンガポール経済会の重鎮達に、今回の会食のお礼にピピコム社の今後のシンガポールでの展望とシンガポール支社移転計画を話した。
彼らはそういう情報を欲していた。

経済会会長は彼の話に喜ぶと、政府がマリーナ・ベイを新たなオフィスエリアとして開発する計画を発表した事や、シェントン・ウェイにあるビルが最近売買され、再開発計画が進んでいるという話をした。
シェントン・ウェイのビル再開発が完成すれば、注目のオフィスビルになる事は間違いない。
マックスはこの話に興味を持った。
マリーナ・ベイを金融ハブ地区とする開発計画についても興味深そうに聞いていたが、こちらは完成が長期に渡るため、ピピコムが予定する支社の移転時期には合わない。

会長は彼のためにすぐに電話を掛けると、ビルのオーナーである法人にこの事業計画の詳細説明のためのアポイントを取る。マックスの滞在スケジュールを考えて、アポイントは明日の午後になった。

キャサリンは食事のあいだ、ほとんど黙っていた。
というより、話題が専門的過ぎてついて行けなかったし、発言する立場に無かった。
そんな彼女の傍らに座るマックスは、堂々たるものだ。

彼はこの中で一番若いが、常に会話の中心にいた。
3倍近く歳の差のある会長と同等に渡り合っている。
しかし決して傲慢な話し方をせず、目上の人間に敬意を払う姿勢は好感が持てる。

彼女は彼を、すごいと思った。
この若さでこれだけの知識と、機知と、経験を持つ彼は、まさに王者の様だ。
キャサリンは自分がこの席に同席している事が場違いなような気がしながら、景色と食事を楽しむ事に専念した。

デザートも終わり、会話はシンガポール観光の事に移る。
会長が色々な名所について説明をしていると、店内に大きなどよめきが起こり、大音響で音楽が鳴り始めた。夜21時を回って、このレストランのイベントが始まったらしい。そろそろお開きの時間だった。

会長はこのあと、マックスをこのホテルに併設されているカジノに誘ったが、彼は時差ボケを理由に断った。会長はマックスの滞在予定を聞くと、仕事の予定の無い日曜日にシンガポール観光を案内しようと彼に提案したが、彼はこれも、先約があると言って丁寧に断る。
会長は残念そうな表情をした。

店を出ると、さきほどの美しい夜景がパノラマで広がっている。
店のガラス越しにずっと見えていた夜景だが、やはり遮るものが無いと迫力が違う。
これにはその場の全員が歓声を上げた。
会長はマックスとキャサリンにサービスをするため、彼らを夜景が良く見える場所に移動させて、得意そうに光を放っている建物の説明を始めた。

キラキラと輝く街を眺めながら、キャサリンは自分の両腕を抱きかかえる様にさすった。
ノースリーブを着ているキャサリンには、夜を迎えた展望ゾーンに吹く風が少し肌寒く感じられる。
マックスはそんな彼女に気付き、上着を脱ぐと彼女の肩にかけた。

キャサリンは、ふわりと掛けられた彼の上着のぬくもりに、ハッとした。
彼女の顔に、困惑が浮かぶ。

「ミスター、大丈夫ですわ」
そう、彼女は声を発していた。




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