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02.05
Tue
2人はお互いの近況報告をしたり、最近観た映画の感想を話しながら、食事を進めた。
会話の邪魔をしないようにテンポ良く出されるプレートは、どれもすばらしかった。

「ほんと、すてきなお店ね。飾り付けがとっても繊細でおしゃれだし、すごくおいしいわ。
 このかかっているソースって、カレー風味かしら。でも嫌味じゃないわ。素敵ね」
キャサリンがメインのオマール海老を食べながらスティーブに話しかけた。

「・・・」
「スティーブ?」
「あっ、ごめん。ほんとおいしいね」
スティーブは慌てて答える。

まただ。さっきからスティーブは何度かキャサリンの問いかけに、うわの空のような素振りを見せる。

――なにか考え事でもしているのかしら。
  もしかして、プロポーズの言葉のタイミングを考えてる?
キャサリンは幸せな想像にどきりとした。

デザートが運ばれて来て、バニラの豊かな香りを纏ったとろけるカスタードを一口、キャサリンが口にほうばった時にスティーブが深刻な面持ちで切り出した。
「キャシー、ダーリン。・・・僕たちもうこれ以上、無理だと思うんだ」

キャサリンは耳を疑った。
というより彼の言葉がよく理解できなかった。
彼女は、ぱちぱちと瞬きを何度かして、手に持っていたスプーンを皿の上においた。
ずいぶんと自分の動作がゆっくりに感じられる。

「無理って? ああそうね。確かに私たち、最近あんまり会えてないわね。もう少し仕事が片付いたら
 いいんだけど。 そしたら前みたいに頻繁に会って、寂しくなくなるわ・・・」
キャサリンは嫌な予感を感じながら、スティーブは遠距離恋愛のことを言っているんだと思おうとした。

「違うんだ」
スティーブはきっぱりと否定した。
「あの、突然の話でびっくりしたと思うけど、君も分かっていただろう?」
彼が、おずおずと話しかける。

「分かっていたですって!」

何が?分からないわ。思わずキャサリンは声を荒げた。
だがすぐに、ここがおしゃれでモダンなニューヨークのレストランであることを思い出し、落ち着いた声で続ける。

「無理って、何? つまり…?」
「キャシー、君とは一緒にいることがとても自然でリラックスできるし、君のことはとても好きだ。
 でも、最近はお互い仕事が忙しくて、なんていうか、距離ができてしまっていたと思うんだ。
 僕たちの関係をこれ以上続けるのは無理だと思うんだ」

スティーブは伏し目がちに所どころ少し早口になりながら、キャサリンを説得するように話した。

――なんてこと。彼は別れ話をしようとしている・・・。

彼女は、さっき口に入れたデザートの味をもう思い出せなかった。
スティーブはまだ何か言っているが、キャサリンにはもう、何を言っているかわからなかった。

「・・・好きな人でも、できたの?」
キャサリンは声を絞り出した。

しばらく無言だったあと、
「そうじゃ・・・ないけど、信じないかな。そう思ってくれてもいいよ」
スティーブは困った顔をしながら答えた。

ぱちん、と音を立てて何かがはじけた気がした。
スティーブの返答を聞いて、彼の答えは出ているのだ、ということがキャサリンには分かった。

キャサリンは、この場でこの時期に別れを告げられることに対する答えとしては全く納得いかなかったが、彼にこれ以上何を言っても無駄なように感じた。
彼女の中の何かが、すっと冷めた。
「そう・・・」

それに、別れ話で取り乱す女に、こんな所でなりたくは無い。
いくら全く予想していなかったことだとしても。

思いのほか揉めずに済みそうだとスティーブは判断したのか、キャサリンの反応を見てほっとした表情を浮かべている。
彼は私を厄介ばらいしようとしているんだわ、と彼女は衝撃を受けた。

「キャシー、君のことは色々な面で尊敬しているし、話も合うし、本心から今後もずっと友人として
 付き合っていきたいと思っているんだ。お願いできるよね」

別れ話を切り出してすぐに酷なことを聞くのね、そんなこと無理に決まっているじゃない、と内心思いながら、
「・・・ええ、いいわ。もちろんよ」
とキャサリンは答えていた。
プライドを守りたかった。


程なく2人は店を出た。

ドアの前でスティーブはキャサリンを送ると申し出たが、彼女は断った。
とんでもない、独りになりたかった。

「・・・それじゃあ」
そう言って少し寂しそうな表情をしながら去ろうとするスティーブを見て、キャサリンの気持ちがぐらついた。

「本当に、私たち別れないとだめ? これからはもっと会える様に、お互い仕事を調整すれば・・・」
キャサリンの言葉に、スティーブは無言で首を横に振った。
その行動には、彼が最初に言った〝もう無理なんだ″という言葉が込められていた。

「そう・・・、ね。ごめんなさい。バカなことを言ったわ」

俯いたキャサリンにスティーブは近づき、抱きしめた。
「キャシー、君には僕なんかじゃなくてもっと素敵な人がふさわしいよ」

彼はそう言うと、それじゃあ、とまた言って彼女に背を向けた。

キャサリンも、スティーブが消え去るのを確認せずに足早に店の前を離れた。



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