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02.28
Thu
キャサリンは彼の、金持ちらしい発言にカチンと来た。
「マックス、そこまでしていただく理由が無いわ。私だって、ドレスの1枚や2枚を買うぐらいのお金は
 持ってるわ。それに、新しいドレスをちょうど買う必要があったから、いい機会なのよ」
新しいドレスが必要な予定など本当は無かったが、マックスに馬鹿にされた様に思い、つい言った。

『しかし・・・』
彼は尚も食い下がろうとする。
「もう! それ以上は無し!」
彼女はカッとなり、きつい言葉を使った。

『・・・ごめん、そんなつもりじゃ無かったんだ』
マックスに謝られて、キャサリンはやってしまった、と思った。
「ごめんなさい、私こそきつく言って。そんな風に言うつもりじゃ無かったのに。睡眠不足で疲れている
 みたい。・・・悪かったわ」
キャサリンは反省した。
傍の椅子に腰掛け、こんな事で感情的になるのは自分らしく無い、と思った。

『いや、いいんだ。気にしないで。部屋は快適?』
彼女は、彼が話題を変えてくれた事に、ホッとした。

「ええ、すごく快適よ。こんないいお部屋を用意してくれて、本当に感謝してる」
『良かった。でもそれはミス・ヤンのおかげだよ。僕は直接手配していないから。その・・・でも、バト
 ラーに聞いた ショッピングモールにある店はお勧めらしいから、是非出かける時はフロントに声をかけ
 て。・・・嫌じゃ無かったら」
彼は、遠慮がちに言う。

彼の様な権力者がそういう言い方をする事も意外だったが、彼に気を使わせた事でキャサリンは少し落ち込んだ。
しかし彼の言った、バトラーとは何だろう、と思う。
「バトラー?」
『ああ、僕の部屋には専属の執事みたいなのが付くらしい。彼に聞いたんだ。ホテル側のサービスだよ』
「そう、すごいわね」

マックスの部屋は彼女の部屋より上層階にある。
そんなサービスが付いているとは、きっとここより更に素晴らしい部屋に違いなかった。
それは、彼の地位を考えれば当然と言えた。

『うん、いいホテルだね。じゃあ、僕は少し寝る事にするけど、教えてくれた彼に悪いし、必ずフロントに
 は声を掛けて。お願いだよ』
さっきは遠慮がちだったマックスは、今度は必ず、と付け加えた。

キャサリンは電話のコードを触りながら、その点に少し、おやっと思ったが、それぐらいはするべきだろうと考えた。
「分かったわ、フロントに声を掛ける様にする。ありがとう、おやすみなさい」
と言って電話を切った。

彼女は困惑していた。

彼女はこの旅行が始まった時から、マックスとの住む世界の違いを感じ始めていた。
特にシンガポールに着いてからは、彼の立場を、まざまざと見せつけられている。
キャサリンに用意されたこの部屋にしてもそうだ。
彼女の給料では、この様な素晴らしい眺望の部屋に滞在するチャンスなど一生の内に何回も無いだろう。
彼女にとっては特別な事だが、彼にとっては当たり前の事なのだ。
彼が直接手配をしなくても、彼には、それを素早く行う有能な部下が世界中に居る。

ミス・ヤン・・・、彼女の若く美しい姿がキャサリンの頭に浮かんだ。
3年前のパーティーでの美しい女性も。
マックスの周りには若く、美しくて、自立している女性が数多くいる。
それに比べてキャサリンは、自分をみすぼらしく感じた。
彼女は33歳で、もう若いとは言えない。それに背も高くは無く、細くも無い。
自立はしているが、国際的な企業に勤めている訳でも無く、アメリカ国内の支店も持たない法務事務所の総務チーフ止まりだ。

そんなキャサリンに、マックスは最初から普通に接した。
確かに2人の間には共通の秘密があるが、彼の気さくで親しみやすい人柄は、彼女に、マックスが取引先のCEOだと言う事、世界的企業の経営者だという事を忘れさせる。
本当の友人の様に思ってしまう。

キャサリンは部屋で荷物の片づけをしながら、勘違いをしてはいけない、彼は住む世界の違う人なのだ、と思っていたのだった。

そこへマックスから電話が掛かってきた。
彼は、彼女の気持ちを知ってか知らずか、親しげに話しかけてくる。
その時のキャサリンには、彼から友人の様に気さくに話し掛けられるのが辛かった。
しかも彼は、あろう事かドレス代まで払うと言う。
キャサリンの自尊心は、過剰反応をした。彼女は自分自身を守るため、つい怒った。

何から守るためだったのだろうか。
だがマックスは、怒った彼女に対しても紳士的だった。

そう、彼はキャサリンに対して事あるごとに紳士的で寛大だ。
少し強引で執拗な面はあるが、彼女が突っかかっても、彼は上手くかわすか、きちんと謝るかをする。
彼女は何故マックスが、彼女に優しく接してくるのか不思議だった。
いや、彼は誰に対しても優しいのだろう、ドレスの事だって、1枚や2枚大した事は無いと言っていたでは無いか、とキャサリンは思った。

――勘違いをしてはいけないわ。
彼とは住む世界が違うのよ。
彼女はもう一度、心の中で繰り返した。





アラームが鳴って、キャサリンは目を覚ました。
念のためにつけて置いたアラームが役に立った。もう12時だ。キングサイズのベッドの寝心地は、恐ろしく良かった。
彼女は、のそのそとベッドを出ると、擦りガラスで遮られたウォークインシャワーに入る。
可愛らしいバスタブを使うのは、今夜までお預けだ。

彼女はマックスとの電話を切った後、パソコンを立ち上げ、この旅が仕事だという事を忘れないために、ジョンに到着報告のメールを送った。
その後、ショッピングのためにこのホテルのガイドを見たが、あまりにも施設が広く、把握するのは困難だと諦めた。そして、ひと眠りしようとベッドに入ったが、先程のマックスとのやり取りのせいで興奮したのか、なかなか寝付けなかった。
だが、知らない間に眠っていたらしい。




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