--.--
--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

02.25
Mon
「ミス・パーカー、君は僕の客人だよ。シンガポール初日の夕食を独りで取らせる訳にはいかないよ」
彼はキャサリンに、得意の有無を言わせぬ笑顔で言った。
キャサリンは彼の招待を、彼の社員の前で辞退できなかった。
これは決定だった。

「では、彼女は今日の15時までフリーなんだね、ミス・ヤン」
「はい。ミス・パーカーは、今日の15時からの不動産確認と19時からのご夕食、明日の午前中は2件
 の不動産確認のご予定です」
キャサリンは、自分のスケジュールがマックス程過密でない事に、ほっとした。

車はシンガポールに最近建設された新たなランドマーク、マリーナ・ベイ・サンズに着いた。
キャサリンはその建物の外観に驚いた。
3棟のビルの上にまるで船が乗っている様なその姿は、まさに圧巻だ。
これにはマックスも感嘆の言葉を発した。
2人はミス・ヤンに説明を受けながら、車の中から外を眺め、どうやって支えているんだろう、と話し合った。

マリーナ・ベイ・サンズは、近代建築の粋を集めた建物で、その外観もさる物ながら、白で統一されたロビーも素晴らしい。20階程ある恐ろしく高い吹き抜けに差し込む光と、巨大な鉢植えに植えられた高木が所どころに配置され、曲線を活かしたその広さに圧倒される。

ミス・ヤンは2階にあるロビーで2人のチェックインを済ませると、それぞれの部屋の鍵を手渡し、説明をした。ホテルのベルマンが現れ、マックスとキャサリンの荷物を持って待機している。
彼女とはロビーで別れた。

2人は同じエレベーターに乗ったが、キャサリンはマックスより先に降りることになった。
どうやら彼は、かなり上の階の部屋らしい。

「じゃあ、14時30分にはミス・ヤンが迎えに来てくれる筈だから、 それまではゆっくり眠るといいよ。
 飛行機の中じゃあまりよく眠れなかったみたいだし。施設内を見て回るのも楽しいかもしれないね。ここ
 は大きなショッピングモールもあるから」
キャサリンがエレベーターを降りる際に、マックスは彼女に話しかけた。

「とりあえず少し寝てから、うろうろして、今日の夕食用の服を見てみる事にするわ。ありがとう」
「ドレス、持ってきていないの?」
マックスはキャサリンに、驚いた表情を見せた。

「だって、そんな夕食に招待されるなんて思ってなかったんですもの。スーツじゃダメよね?」
「・・・カジュアルシックならいいんだろうけど。だから言っただろう、荷物が少なすぎるって」
「誰かさんがちゃんと予定を教えてくれていたら、こんなへまはしなかったわよ」

キャサリンはマックスに文句を言った。
2人はさっきのミス・ヤンの前での言葉使いとは違い、砕けた調子になる。

「・・・そうか」
マックスは納得した表情を見せた。
「さあ、早く行って。エレベーターをいつまでも止めておくのは良くないわ」
彼女はマックスのベルマンに早く上がる様に指示した。
マックスも、それには異論が無い様だ。

エレベーターのドアが閉まるのを確認して、彼女は自分の部屋へと案内された。
彼女の部屋はマックス程では無いが、建物上層階にあった。

明るい家具と色調で統一されたリビングと、キングサイズのベッドが備わったベッドルーム、美しいバスルームにはバスタブとウォークインシャワーがある。

彼女はその豪華さに感動した。
部屋からの眺めも良かった。
シンガポールの街並みでは無く、海側を見下ろす眺望は少し残念な気がしたが、多くの船が行き来していて面白い。テラスには椅子とテーブルが備え付けられていた。
これが全てピピコム社の経費から出ているとは、すごいの一言だった。

――この出張、来て正解だったわ。
彼女は来る前に悩んでいたことをすっかり忘れ、この旅行を楽しむ気になっていた。

父の事があるのでこれから先、暫くは旅行などできないだろう、と思う。
いや、今回の出張が無ければ、旅行に行く事すら考えていなかった。
故郷の父と妹のソフィアの事を思うと複雑な心境だったが、運命のいたずらで降って沸いたこの旅行を楽しむことを心に決めた。
帰れば、悲しみが待っている。
その悲しみに備えるために、今は楽しもうと思った。

キャサリンのスケジュールにはかなりゆとりがあったので、独りでシンガポール観光を楽しもう、と彼女は考えた。マリーナ・ベイ・サンズを見て回るだけでも、旅行の全ての日程を使ってしまうかも知れなかった。
わくわくしながら、荷物をほどく。

電話の鳴る音が聞こえた。
最初は何が鳴っているのか分からずに、きょろきょろとしたが、部屋の備付けの電話だと気が付いた。
ベッドルーム横のカウンターテーブルの上で鳴っている。
キャサリンは電話を取った。

『キャシー、もう寝ていた?』
「マックス? まだ寝ていないけど、何か用?」
『さっき君が言っていた事だけど、夕食の件、出発前に君に相談すべきだった。悪かった』
「ああ、そんな事いいのに。気にしないで」

彼女は、彼がわざわざ謝罪の電話をして来た事に驚いた。
彼がそんな事を気にするとは思っていなかった。

「忙しいんでしょう。あなたこそ支店に出社する前に少し仮眠を取って。それじゃあ」
彼女は早く電話を切ろうとした。
『待って、お詫びにさっき君が言っていたドレス、僕に支払わせてくれないかな。ショッピングモール
 にたくさん店があるらしいから・・・』
マックスは言葉を続けかけていたが、キャサリンはそれを遮った。

「マックス、そんな事をしてもらう必要は無いわ。あなたがそんなに責任を感じる事じゃ無いわよ。
 私は 充分してもらっているわ。とても素敵な部屋を用意してもらって、すごく感謝してる」
『しかし、僕にとってドレスの1枚や2枚、どうってことないんだよ。僕の好意だと思って受け取って
 欲しいな』




>>次へ  >>目次へ


↓ネット小説ランキング↓   ↓アルファポリス↓
         
◆上記ランキングサイトにてランキング登録中。面白いと思ったら上のバナーをぽちっとな!よろしく!

関連記事

trackback 0
トラックバックURL
http://nicika.blog.fc2.com/tb.php/45-c288049a
トラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。