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02.25
Mon
飛行機ではキャサリンとマックスは隣同士の席だった。
彼女は緊張し、本来なら寝ている時間だったが、ニューヨークでの明け方に当たる時間になるまで眠れなかった。フライトの間、彼女の隣のマックスは、高性能で薄いノートパソコンとタブレット端末の両方を長時間使って、作業をしていた。
キャサリンが短く浅い睡眠から目が覚めても、同じ作業をしている。

とうとう、何をしているのかと彼女が訊ねると、機上で各国の各部署とチャット会議をしていたらしい。機内なので、会話が社外の人間に聞かれる事を敬遠してチャットで行っているとの事だった。
キャサリンと会話をする間も、パソコンの画面に誰かのコメントが表示されると、彼は器用にキーボードを叩きながら彼女に受け答えをした。
画面のやり取りの内容を見られるんじゃないかしら、それは大丈夫なのかしら、とキャサリンは思ったが、カタカタとテンポよく打ち込まれる文字は、相手の返答とあっという間に繰り返されて、把握するのは困難だった。

キャサリンはマックスの多忙さと、パソコンの操作能力に感心しながら、呆れた。
彼は何時間もそうしていたが、2つの端末の電源を落とすと、キャサリンに映画を観よう、と言った。それで、彼と彼女は長時間のフライトの内の2時間、最新のアクション映画を一緒に観た。
それ以外の時間、彼女はマックスの物よりも分厚く性能の劣る持参のノートパソコンで、W&Mの資料作成をしたり、読書をしたりした。

到着の8時間ほど前になると、キャサリンはまた眠たくなった。朝起きた時から考えると、短い仮眠を除くと28時間ほど起きている事になる。すぐに睡魔が訪れた。
そして、着陸の30分前にマックスに起こされた。
彼はキャサリンが寝ている間に睡眠をとって、今またパソコンを見ている。
彼女はCEOという仕事の業務の多さと、彼のタフさに舌を巻いた。

シンガポールのチャンギ空港には、現地時間で金曜日の朝6時30分に着いた。
キャサリンは飛行機を降りた空港の通路で、大きな伸びをする。
ビジネスなのでエコノミーよりゆったりとした席だったが、18時間30分ノンストップのフライトはとてつもなく長かった。機内では隣のマックスを意識して、寝ても安眠とは言えず、自身が寝返りを打つたびに目が覚めたし、本来ニューヨークであれば時刻は翌17時30分のはずだった。
完璧な時差ボケだ。

税関を抜け、荷物を受け取り、到着口を出ると、女性に声を掛けられる。
「ミスター・コナーズ」
彼女はスーツを着ていて、東洋の血をはっきりと表す美しい黒髪をしていた。
そして東洋の女性に多い、細い体をしている。

「ミスター・コナーズ、シンガポールへようこそ。こちらで滞在なさる間、秘書を務めさせていただく
 サラ・ヤンです」
彼女はマックスに手を差し出した。
「ああ、アルから聞いているよ。マックス・コナーズだ、よろしくミス・ヤン。こちらは、W&M法務事
 務所のミス・キャサリン・パーカー」

彼はミス・ヤンに握手をし、キャサリンを紹介した。
彼女はキャサリンを見ると、自己紹介を述べる。
「サラ・ヤンです。お2人の今回のお仕事が快適な物になる様に、お手伝いをさせていただきます」
「キャサリン・パーカーです。よろしく」

――なぁんだ、秘書がちゃんと付くのね、さすがはCEOだわ。
キャサリンは思いながら、彼女と握手をした。
そして、現地時間では早朝であるはずなのに、きちんとスーツを着て出迎える彼女に対し、自分がラフな半袖とジーンズ姿である事に、恥ずかしさを覚えた。
マックスに飛行機の中で事前に確認を取っておいたが、彼の言う事を信じたのは失敗だったと分かる。
彼も同じような格好をしているが、彼とキャサリンでは立場が違うのだ。
自分はスーツを着ておくべきだったと、後悔する。

「では、滞在されるホテルへご案内いたします」
「ありがとう、ミス・ヤン」
彼は答え、2人はミス・ヤンに先導されてチャンギ空港を出た。


シンガポールは早朝から晴れていた。
この国は赤道直下に近く、太陽がまぶしい。ミス・ヤンの運転する高級車に乗り、チャンギ空港を離れる。車から見るチャンギ空港は、朝日を浴びて白く輝いていた。
高速道路を走る間、キャサリンは熱帯性の街路樹と、シンガポールの街が予想していたのより大都会であることに驚いた。朝日に照らされる高層ビル群は美しかった。
そして、この旅行にわくわくとした気持ちが沸き起こるのを止められなかった。

「ミス・ヤン、取り敢えず今日の予定を確認したいのだが」
マックスは、後部座席から彼女に話し掛ける。

「はい、これからホテルにチェックインしていただいた後、CEOにはシンガポール支店へ出社していた
 だき、全社員への特別朝礼にご出席いただきます。その後、支店内のご案内を予定しております。
 支店長、各部門長と昼食後、13時からご商談が一つ、15時から不動産物件のご確認がございます。
 こちらの確認には、ミス・パーカーもご同席をお願いします。帰社後、シンガポール支店の業績につい
 てご報告にお時間を取っていただいて、19時からシンガポール経済会会長とご夕食のご予定です」
彼女は車を運転しながら、すらすらとマックスの予定を言った。

「えーと、シンガポール時間の17時か17時30分には、インドとちょっと話をしなくちゃならない議題
 があるんだけど、時間がとれるかな?」
「・・・不動産確認にかかる時間と業績報告のお時間によりますが、調整は可能かと存じます」

ミス・ヤンが答える。
キャサリンはマックスのスケジュールの過密さに目を見張った。
世界的企業のCEOであるという事はこういう事なのか、と思った。

「それと、経済会会長との夕食にはミス・パーカーも同席の予定になっているかな?」
マックスはミス・ヤンに聞いた。
「予定には入っておりませんが」
彼女はルームミラーで後部座席のマックスとキャサリンをチラリと見て言った。

キャサリンは、彼女の黒い瞳に、じろりと睨まれた様な気がした。

「では、彼女も同席すると先方に伝えて欲しい」
マックスはミス・ヤンに指示した。

「ミスター、その様な席に私も同席する訳には参りません」
キャサリンは慌てて言った。
そんな席に同席するための服を持ってきていなかったし、ミス・ヤンにまた睨まれる訳には行かない。




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