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02.22
Fri
マックスはキャサリンの荷物を持つと、先に部屋を出る。
キャサリンは電気を消し、部屋に鍵を掛けると彼を追った。
彼女の部屋はアパートの3階で、建物にはエレベーターがついていない。
そのため階段で昇り降りをしなければならず、正直、マックスが荷物を運んでくれるのは嬉しかった。
彼女は急いで階段を降りたが、彼はもうアパートの外へ出ていた。
高級車のトランクを開けて、彼女のスーツケースをその中へ入れている。

「すごい高級車ね」
キャサリンはあまり車には詳しくなかったが、彼の見事な流線形のシルバーの車が高級車だと言うぐらいは分かった。
彼女は、マックスが親しみやすい雰囲気だったので忘れていたが、彼がピピコムの最高経営責任者である事を思い出した。

「そうでも無いよ」
マックスはさらりと言った。

そうでも無い? そんな筈無いわ、と彼女は思った。
彼の言葉に、彼女は自分との生活のレベルの差を感じた。

「さ、乗って」
マックスは助手席のドアを開ける。
彼女は遠慮しながら、黒い革張りのシートに滑り込んだ。
シートの革は高級品らしく、少しひんやりとして素晴らしく手触りがいい。
車には他に誰も乗っていなかった。
彼は運転席に座ると、慣れた手つきで車を動かす。

「空港で他の誰かと合流する予定なの?」
キャサリンは彼に尋ねた。
ニューヨークの夜景が窓の外を、すべる様に走っていく。街は街灯と光り輝く看板で明るく縁どられている。

「いいや」
「いいやって? まさか2人なの?」
「僕の秘書のアルも一緒に行く予定だったんだけど、僕がいない間に片付けたい業務ができたって言って、
 断られたんだ。おかげで僕は、いつも彼にやってもらっているスケジュール管理を自分でしなくちゃな
 らなくなった」
そう言って交差点を曲がるために、ハンドルを左に切る。
角を曲がって彼が車を加速させても、エンジン音はほとんど聞こえない。

「時間に遅れずに行動できるか心配だよ。あ、そうだ、キャシー、君がアルの代わりに僕のスケジュール
 管理をしてくれてもいいね」
「無理よ、そんなの」
「そうかな? 無理かな」
「私は他社の人間なのよ。どうやって私を他人に紹介するのよ。おかしいでしょ」
「・・・そうだね、君を現地の社員に紹介する時に、おかしな事になるね。なるほど、いい案だと思った
 けど無理だな」

キャサリンは彼が冗談を言っていると思ったが、マックスの様子を見ると、彼は本気の様だった。
彼女は少し呆れながら、今後のスケジュールの確認の必要があると感じた。
「飛行機のチケットを見せて貰ってもいい?」

彼女はマックスに言った。
彼は、いいよと言ってコートの胸ポケットからチケットを出す。
彼女は、こういう事は事前に準備をしないと気が済まない性質だ。
今回はピピコム社に同行という事だったので、行程や現地でのスケジュールについては、フランツ氏に任せれば良いのだろうと思っていたのだ。
彼が来ないとは、当てが外れた。
まずは、飛行機の航空会社とゲートを確認しなければならない。
彼女はチケットを見た。

「これ、ビジネスなのね」
キャサリンは、実は飛行機はエコノミーしか乗った事が無い。
ビジネスクラスに乗るのは初めてだったのでつい、言葉に出した。

「ああ、ごめん。便の都合でビジネスしか無かったんだ。ファーストにしたかったんだけど」
マックスは彼女の言葉の意味を取り違えた。
彼は仕事だとは言え、彼女との初めての旅行だったので、ファーストクラス以上を使いたかったのだ。
それでつい、そんな言葉が出た。

「ピピコム社専用機で行けば良かったんじゃないの?」
彼の本心が分からないキャサリンは、さっきの彼の言葉にまたもや彼との経済感覚の違いを感じ、嫌味を言ってみた。

「行ければ良かったんだけどね。でも、さすがにシンガポールは遠くて、社の機体だと途中の給油でだいぶ
 ん時間が取られるから、航空会社の直行便の方が早いんだ」
「まさか、本当に専用機があるの?」
「あるよ。そんなに大きくないけどね。今度、乗せてあげるよ」

マックスは助手席の彼女をチラリと見て、ニコッと微笑んで言った。
キャサリンは、彼がキャサリンなんかとは桁違いにお金持ちなのだ、という事に、今更のように気付いた。

――住む世界が違うわ。
彼女は思った。
この旅の先が思いやられた。
世界的企業のCEOに同行するなど、とんでもない事だと言う事が理解でき始めていた。

彼女は、今回の出張に同行する事を了承したのを後悔しながら、窓の外を流れるニューヨークの夜景と、車の中という密室で感じる彼の匂いと、彼のさっきの笑顔に、とろけそうになるのを必死で堪えていた。




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