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02.14
Thu

キャサリンは自分のアパートに帰ってくると、通勤用の鞄を荒々しくソファに投げつけた。
鞄はひっくり返って、中身をばらばらに零す。

「ああもう!」
そういう事にならない様に手加減をして投げたつもりだったが、上手く行かない時は何事も上手く行かない。
キャサリンは心の中で、鞄まで言う事をきかないなんて、と悪態をついた。

マックスが帰った後、ジョンとトビ―は嫌がるキャサリンを説得に掛かった。
彼女は、退社までの勤務日数が限られている事と、今までに経験の無い仕事なので自信が無い、という事を理由に断った。自信が無いというのは嘘だ。
これが退職前でなく、マックスとあんな事が無かったら、喜んで挑戦していただろう。
今までの単なる補佐でなく、弁護士と一緒に交渉や打ち合わせに参加できるというのは、彼女にとって魅力的だった。そしてキャサリンには、やれる自信があった。

しかし、キャサリンはマックスにもう会いたくなかった。
彼との事は過去に葬り去って、彼女は故郷に帰るつもりでいたのだ。
今後、仕事で顔を合わせると嫌でもあの事を思い出してしまう。
それに今日、彼と再会して、自分が多くの事を覚えていなかった事が分かった。

キャサリンはその事も恥ずかしかった。彼と同じ部屋に居るだけで、体温が上がったり下がったりして気が動転しているというのに、今後耐えられるはずが無かった。そんな状態ではまともな仕事ができるはずも無い。
しかしジョンとトビ―は納得しなかった。

〝キャシー、君の勤務日数が限られているのは、我々も分かっている。だがその残りの日数をW&Mのた
 めに、有益に使ってくれないか。これはW&Mにとって大きなチャンスだ。長い間勤めてくれている君
 なら、良く理解できるだろう? 確かに、本来なら、我々も退職が近い君に、こんな仕事の担当補佐を
 依頼したりしないよ。だが向うが現在、君を指名しているのだし、現状でピピコムのCEOの意向を無
 視する訳にはいかないだろう? だが我々は、君の退職を伸ばそうというんじゃない。君の事情は、よく
 分かっている。だから我々は、君にはピピコム担当補佐をしてもらうが、退職日近くには担当補佐を変
 更するつもりだ。自信が無くても大丈夫だ、君が担当補佐をしている間は、全力でサポートするよ。
 頼むよ〟

2人にそこまで言われて、キャサリンはもう断れなかった。
断る表向きの理由が無くなってしまった。結局、キャサリンは了承した。

「全く何なのよ、もう」
キャサリンはまた文句を口にしながら、散らばっている鞄の中身を鞄の中に戻した。
こういう日は、熱いシャワーを浴びて、熱いお風呂にゆっくりと浸かろう、と考える。食欲は無かったが、何か胃に入れておいた方が良いような気がして、冷蔵庫を開ける。料理をするのは嫌だったので、チーズを挟んだだけのサンドイッチにした。

浴槽に湯を張ると、熱くたっぷりと入ったお湯にキャサリンは浸かった。
また今日の事を思い出していた。
色々な事が頭を巡る。
結局、マックスとはこれからも顔を合わせなければならない様になってしまった。
はあ、と自然にため息が出る。

だが、お風呂につかっている内に、あと2週間足らずなら何とか乗り切れるのかも、と前向きな考えが浮かんできた。
――ピピコム担当補佐は断りきれなかったけれど、マックスともあと2週間だと思えばいい。いや、何な
  ら1週間ぐらいで何とか理由を付けて誰かに代わってもらえばいい。それに、毎日ピピコムの相手
  をするばかりでは無いし、ジョンとトビ―が言っていた様に、困ったら2人に相談しよう。あとは、
  マックスが今後どういう対応に出てくるかだが、何もなければいいし、彼があの一夜の事を持ち出
  してきたら、上手くはぐらかす事にしよう。

困った事に彼はピピコムの経営者なので、機嫌を損ねずに上手くあしらわなければならない。
そんな思いが、彼女の頭の中でまとまって来た。

だがマックスの今日の様子からだと、仕事上で彼がキャサリンに、あの夜の事を持ち出してくることは無さそうな気がした。
彼は元々、W&Mに仕事を依頼しようと考えていて、そこに偶然キャサリンが居ただけかも知れない。
彼の方こそ、彼女にびっくりしていたかも知れなかった。

――いや、そんなはず無いか・・・、彼は私がW&Mの社員だって知っていたんだったわ。
キャサリンは思い出していた。

すると、彼があの夜の時も、彼女の事を覚えていたのかが気になった。
しかし彼はあの時そんな事は言わなかった、どういう事だったんだろう、と彼女は考えた。
それに何故ピザ配達をしていたのか。
彼ほどの人物なら、ピザ配達などする必要は無いはずだ。

多くの疑問が頭の中に浮かぶ。
そして今日思い出した、3年前のパーティーでの事が浮かんだ。
マックスは傍らに美しい女性を伴っていた。
その事を思い出した時と同じ思いが、キャサリンの胸を占めた。

――彼にはあんな事、日常茶飯事なんだわ。
だから言う必要が無いと思ったんだろう、と思う。
そんな男に引っ掛かってしまうとは。
キャサリンの胸の中に暗い感情が沸いた。

全てはそれまでのストレスと飲み過ぎたせいだった。
また、後悔の念がキャサリンの胸に満ちる。

玄関のブザーが鳴っているのが聞こえたが、キャサリンは出たく無かったので、無視する事にした。
何もネットで注文した覚えも無いし、夜の来訪者は碌なことが無いと決まっている。

が、また鳴る。
それでも無視していると、再度ブザーが鳴り、今度はドアをドンドンと叩く音も聞こえた。

「もう!何なのよ」
キャサリンは文句を言いながら浴槽を出た。
全く今日はついてない。
今日の占いはどうだったのかしら、と思いながら体を拭く。

その間もブザーが鳴り、ドアを叩く音が聞こえたので、腹が立ってバスタオルを巻いただけの姿で玄関の方に行くと、ドアの向こうにいる人物に大声で言った。

「お願いだからドアを叩かないで! もうすぐ開けるわ」
ぴたりとドアを叩く音が止まった。
キャサリンはそのままバスルームに戻り、体を拭き直し、服を着た。
髪を乾かす時間は無い。頭にタオルを巻いた。
するとまた玄関のブザーが鳴る。

「もう!」
何てせっかちな人なんだろう、とキャサリンは怒りながら玄関に行くと、
「今開けるわ! どなた?」
とドアに向かって言った。

「やあ、キャシー、さっき開けるって言ったのに開けてくれないから、何かあったのかと思って」
ドアの向こうから一番会いたくない人物の声がした。
マックス・コナーズだ。




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