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02.14
Thu

マックスは彼の銀色に光る高級車をアルバートに運転してもらいながら、後部座席で窓の外の夜の街を眺めていた。その表情からは何も読み取れない。


2週間前、彼がキャサリンと一夜を過ごした後、目を覚ますと彼女はベッドに居なかった。
彼は、彼女がシャワーでも浴びているのかと思った。そしてバスルームを覗いたが、そこにも彼女はいなかった。彼女は部屋から消えていた。

マックスはそれでも彼女に何か急用でもできたのかと思い、メモが残されていないかと部屋の中を探したが、見つからなかった。

彼は愕然とした。

彼女は酔っていたが、彼女と過ごした一夜は親密で、素晴らしかった。
マックスは、キャサリンもそう感じ、2人でそれを共有したと信じていたのだ。

だが彼女はマックスを置いて去った。連絡先も残さずに。
彼は女性にそんな事をされたのは初めてだった。もちろん、女性にそんな事をした事も無い。

怒りが湧いた。

彼女はマックスの事を思い出さないばかりか、一夜だけの関係として都合よく使ったのだ。
キャサリン・パーカーという女性に心底、腹が立ったし、彼女は大した女性では無いのだと思った。
だがそんな女性の誘いに乗って、一夜を共にした自分にも腹が立った。

それで、彼女の事は一夜の過ちとして忘れることにした。

どうせ彼女は、3年前の事を覚えていない。
こちらから連絡を取らなければ、向こうはマックスの素性を知らないと言えるし、2度と会うことは無いだろうと思った。もし彼女が3年前の事を思い出し、マックスが億万長者だと気付いて連絡を取って来たとしたら、その時はその時だ、と思った。そんな狡猾な女性だったなら、その時はこちらから捨ててやればいい。

しかし忘れられなかった。
3日も経つと、彼は、やっぱり彼女は何か急用ができて慌てて帰ったのではないか、と考える様になっていた。メモや伝言を残すことができないほどの事が彼女に起こったのではないか、と。

それほどマックスにとって、キャサリンと過ごした時間は親密で素晴らしかった。
彼には、酔ってはいたが、正直に自分をさらけ出すキャサリンが好ましく映ったし、一緒に居て楽しかった。その後のSEXはもっと素晴らしかった。
今でもあの夜の事を思い出すと、体が自然と反応してしまうほどに。
それに、彼女とその時に過ごした感覚から、彼女が一夜の関係で男を渡り歩くような女性には思えなかった。

――彼女はもしかしたら、僕に連絡を取りたいと思っているが、連絡できなくて困っているかもしれない。
マックスはお人好しにも、そう思った。
その後も何日か悩み、キャサリンとの一夜から一週間経った後、とうとうナタリーのアパートを訪ねる事にした。


〝ああ、マックス、久しぶりね。いつものピザ屋の服じゃないから分からなかったわ〟
ナタリーのアパートを夜、訊ねると、彼女はいつもより固い表情だった。
おかしいな、と思いながらマックスは要件を言った。
〝キャサリンに連絡を取りたいんだけど、連絡先を教えてもらえないかな? その・・・、直接教えてもらえ
 れば良かったんだけど、彼女慌てて帰っちゃって、聞きそびれてしまったんだ。彼女、僕が来るだろうっ
 て、言っていなかった?〟
〝キャサリン? 言っていなかったけど。・・・そうね、悪いけど連絡先は教えられないわ〟

マックスは、自分が招かれざる客だという事を感じた。明らかにナタリーは以前の様子と違い、迷惑そうだ。それでもマックスは、当初の目的を達成しようとした。
〝そっか、じゃあ、僕の連絡先を彼女に伝えておいてくれないかな〟
そう言って、携帯番号を記したメモを渡した。
〝オーケー、渡しておくわ〟
ナタリーは答えてメモを受け取った。


マックスは知らなかったが、彼がナタリーの部屋を訪れたのは、キャサリンとナタリーがあの夜の事を電話で話した水曜日の翌々日だった。
そのため、マックスを碌(ろく)でもない男と決めつけていたナタリーは、彼をキャサリンから遠ざけようとしたのだ。彼がキャサリンにと渡したメモも、ナタリーは彼女に渡さずに捨ててしまっていた。

当然ながらその後も彼に、キャサリンから連絡は無かった。
それでとうとう、マックスは彼女がやっぱり一夜限りの関係に彼を利用したんだと、理解した。

猛烈に怒りが湧いた。

マックス・コナーズの人生の中で、こんなにバカにされたのは初めてだった。
彼は彼女に、何か仕返しをしなければ気が済まなくなっていた。
そこで、今回の事を思いついた。

――彼女に思い知らせてやろう。逃がした魚が大きかったと、悔しがらせてやろう。
マックスの胸に、どす黒い感情が沸いていた。

そして今日、W&M法務事務所を訪ねた。ピピコムのCEOとして。
彼は、彼女がどんな反応をするか楽しみだった。
まず彼女は驚くだろうと思ったし、もしかしたら彼が巨大企業の経営者だと分かって、関係を修復しようとするかも知れない、と思った。
その時は彼女の同僚の前で、彼女を捨ててやろうと思っていた。
その陰湿な考えは、彼の自尊心を満足させた。

だが彼女は、彼の思いに反して、マックスを見ても何の反応もしなかった。
それどころか、3年前の時の様に、単なる客として平然とマックスに接している。

マックスは彼女を見たときから、体中の血が沸きあがる思いをしているというのに。
彼女を見た瞬間から、マックスの頭には、鮮明に彼女と過ごした夜が蘇っていた。
あの時の彼女の表情、奔放さが。

――これが、僕の前で泣きじゃくっていた女性と同一人物だろうか。
マックスはキャサリンの態度に驚嘆した。
そして、彼女の仕事に対するプロとしての姿勢には、彼がジョンとトビ―に語ったように、敬服した。
彼女は仕事にプライベートを持ち込まない主義らしい、と思った。
彼女がその場で取り乱したり、マックスに色目を使ったりすることで、W&Mとピピコムの商談が破談になることを恐れているのだろう。
もしくは、彼との事を無かった事にして忘れたいか、だ。

――そんな事をさせて堪るか。
とマックスは苦々しく感じた。

そして、彼女の仕事に対する姿勢を利用することにした。
彼女がそういうつもりなら、彼女をピピコムとの交渉役に指名して、否が応でもマックスに対応しなければならないようにしよう、と考えた。
彼の頭にはW&Mに来る前に考えていた、彼女に恥をかかせて捨てる、という思いは既に無くなっていた。
彼女がジョンの部屋に入ってきてから、彼の思いは、キャサリンとの一夜で見た、彼女の反応の方に流されていた。

その時の彼には、キャサリンと仕事を通じて会う機会を増やしてから、自分がその後彼女をどうしたいのか、まではまとまっていなかった。ただ、その時はそうしたい、と思ったのだ。

その後、交渉はマックスの意図する方向に進み、キャサリンはW&Mにおいての、ピピコム担当補佐となった。彼は、部屋を去ろうとする彼女に握手を求めた。
彼の中の男としての征服欲、支配者欲だったのだろうか。
彼女に、自分が優位に立っていること、彼女をどうにでもする力を持っていること、彼女の事など、どうでも良いと思っていることを見せつけようとした。

しかし彼女は、それにひるまず、にっこりと笑顔で返した。


その笑顔を見た瞬間、マックスの中の彼女に対する怒りは吹っ飛んだ。
一夜を過ごして置き去りにされたことなど、どうでも良くなった。

マックスには理解できた。
自分が、彼女に恋をしていることが。
きっと、3年前から。




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