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02.14
Thu
彼の秘書によってW&Mに提示された内容は以下の通りだった。
 ・現在ピピコムは、既に出店しているシンガポールの事務所の移転、拡大を検討しており、新たに東南
  アジア地域全体での拠点となる事務所を開設するため、不動産を探していること。
 ・W&Mは、候補にあがった不動産物件の提示条件について、異国、異文化であることを考慮しつつ国
  際法上と米国法上で不備が無いか、またピピコムに不利な条件ではないかを検討し、アドバイスをす
  ること。
 ・現在候補にあがっている物件は、2~3箇所だが、これは今後変わることもあること。
 ・ピピコム社内法務部との二重チェックとすること。
 ・W&Mの意見がピピコムに有益であると判断できた場合、最終的に決定した不動産物件の契約交渉、
  契約書の作成を依頼する可能性があること。

ジョンとトビ―は、なるほど、と頷きながら静かにフランツ氏が語る内容を聞いていたが、キャサリンには2人が興奮しているのが分かった。
何しろW&Mにとって、これはかつて無い大きな仕事と言えた。

ピピコムが希望する物件の条件は、かなりの広さをその国の中心地で必要としている。
アドバイスを通じてピピコムの信用を勝ち取り、その賃貸もしくは売買の契約を成立させた場合、その手数料は莫大なものになるだろうと予想できた。まさにビッグチャンスだ。

フランツ氏がジョンとトビ―からの質疑応答に、有能な見た目の通りそつなく答え終わると、
「それと、今回の件の担当はミス・パーカーでお願いしたい」
と、マックスが言った。

これには、W&M側の全員が驚いた。
だがジョンとトビ―はさすがに百戦錬磨の弁護士だ。驚いたことを顔にも出さない。

キャサリンは総務部チーフであって弁護士ではない。
このような案件の担当ができる筈は無かった。
キャサリンが思わず言葉を発しかけた時、トビ―が残念そうに、やんわりとマックスに言った。
「ミスター・コナーズ、確かに彼女は有能ですが、・・・残念ながら弁護士ではありません。担当は出来
 かねるかと思います」

「ああ、これはうっかりしていたな。そうでしたね。でも僕は、彼女の仕事の熱心さを買っているんです
 よ。そうだな、では担当補佐ということで、我が社への連絡や交渉の際には彼女を使っていただくこと
 でお願いしよう」
マックスはさらりと言ってのけた。

彼は初めからキャサリンが弁護士では無い事を知っていて、わざと言ったのだった。当然、W&M側はそれを否定する。すると彼はそれに対して譲歩案を出す。
W&M側にはこの話をまとめたい、ピピコムのCEOの機嫌を損ねたくは無い、という意思があるので、彼の言葉を二度重ねて否定することを心理的に嫌う。
そのため、彼らは自らマックスの出した条件を飲むことになる。

若干28歳にして、もともと持っていた天性の素質なのか、マックスは巧みな話術を身に着けていた。
そして彼は譲歩案を出してはいるが、W&M側の意見を聞いてはいなかった。
ジョンとトビ―に検討の余地は無かった。

「なるほど、それは可能ですね」
「そうだな」
トビ―とジョンは頷きあっている。

「ですが・・・」
キャサリンが今度は声をあげた。

彼女はあと2週間ほどで退職することになっている。こんなプロジェクトの担当補佐など事実上無理だ。
それにジョンとトビ―は知らないが、彼女は、マックスと彼女の間に起きた事を早く忘れたかった。
彼と仕事上であったとしても顔を合わし、接し続けるなんて、嫌だった。

「キャシー、細かい事は後で話し合おう」
ジョンはキャサリンに有無を言わせない視線を送ると、言った。
キャサリンはこの場では黙るしかなかった。
「分かりました」

彼女はこらえながら答えた。
しかし、この場にこれ以上同席するのは耐えられそうになかった。
さっきからキャサリンには、驚くような話の展開になっている。平静を装うのも限界に来ていた。
それに、ここにいると嫌でも彼から発散されるパワーを感じてしまう。
何しろこの場所は、完璧に彼の支配下にあるのだ。
キャサリンは言った。
「あの、ご用が無ければ、まとめなければならない資料が残っていますので、失礼してもよろしいでしょ
 うか」

ジョンとトビ―は顔を合わし、マックスを見た。
会話の主導権を握っているマックスが、どう思うのかを気にしているのだ。
マックスは頷いた。

――彼は、まるでもうW&Mの社長のようだわ。
キャサリンはその事を悔しく思いながら、退席できることに安堵した。

「では、失礼します」
そう言って去ろうとするキャサリンに、マックスが立ち上がって握手を求めた。
「では、期待をしていますよ、ミス・パーカー」
マックスは、にっこりと笑みを浮かべながら彼女の目を見て、言った。
「お役に立てるとよろしいですけど、ミスター・コナーズ」
2人は握手を交わした。
彼女は、マックスの営業スマイルに違い無いその笑顔に、負けじと満面の笑みを返した。






ジョンの部屋を退席したあと、キャサリンはカフェコーナーでコーヒーを淹れて一息をついた。
気分を落ち着かせるために、ゆっくりとブラックコーヒーを飲む。

一杯飲みきって、自分の席で飲むためにもう一杯淹れるとカップを手に持ち、資料作成の続きをするために総務部へ戻ろうとした。
カフェコーナーを出ると、先ほど総務部に彼女を呼びに来た、オズワルド・スピネリが通りかかった。

「ああ、キャシー、ケント夫妻の時の資料の件、聞いてくれたかな?」
オズは親しげに語り掛けてきた。
彼がそんな風にキャサリンに話しかけるのは珍しい。

「ええ、ジョンから聞いたわ」
「あの時はその、気が動転していて、君にきつく言って悪かったと思っているんだ。もっと早くに謝ろ
 うと思っていたけど、中々機会が無くて」
オズは謝ろうとしてくれているらしい。
キャサリンは彼を許す気になっていた。
「いいのよ。それに、ローザに確認を取ってくれたのもあなたでしょ。ジョンにも言ってくれたし」
「いや、あれはあの後、冷静になってみたら気が付いてね、君がそんなミスをするかなって。そしたら
 ローザがそんな事を言うからね、ジョンに君の事を言ってしまった責任もあるし。・・・あまり君に
 言った事は無いけど、僕は君の仕事を認めているんだよ」

オズの言葉にキャサリンは素直に喜んだ。あの時は落ち込んだが、オズも自分の事を認めてくれていた。
普段オズとは親しく話すことは無いが、そう思っていてくれていた事が分かり、彼に親近感が沸いた。
彼女はオズに微笑んだ。

「ありがとう。あなたのおかげでローザもあの後、謝ってくれたの。もう、気にしてないわ」
「そうか、良かった。ローザにはちゃんと君に謝る様に言っておいたんだ」
オズはホッとした表情を見せたが、顔を曇らせると彼女の手を取り、勿体付けてから言った。
「キャシー、君、辞めるんだって? ジョンから聞いたよ」

キャサリンはぎょっとした。まだ秘密の筈だった。
「どうして知っているの?」
「弁護士にはジョンとトビ―から話があったんだ。その、もしかして僕のせいかな?」
オズは、自分のせいで彼女が辞める決意をしたのではないかと心配しているのだ。
キャサリンは父の事が伝わっていないことに安堵しながら、合点がいった。

どうりで、普段話しかけてこないオズが話しかけてくるわけだった。それも親しげに。
そして、オズに触られている手を引っ込めようとしたが、コーヒーを持っているため自由にできない。
彼女はこの会話を早く終えようと、慌てて言った。
「いいえ、そんな事は無いわ。少し、事情があって。オズのせいじゃ無いわよ」
「本当に?」
「本当よ。そんな事で辞めたりしないわ」

その時、ジョンの部屋のドアが開いた。
フランツ氏とマックスが、打合せを終え出てきたのだ。
2人が、廊下のこちら側にいるキャサリンとオズに気が付いているのは明白だ。
気のせいかキャサリンは、マックスから鋭い視線を感じた様な気がした。

「そうか、良かった。君にはお詫びのしるしに一度ランチでもおごるよ。都合のいい時を教えて」
オズも来客が出て来た事に気付いたようだ。会話を切り上げようとしている。
「いいのよ、そんなこと」
キャサリンは言ったが、オズは、絶対だよ、と言ってからキャサリンの手を離し、自分の部屋へと向かった。

キャサリンは短い廊下で、事務所の玄関へ向かうフランツ氏とマックスのために道を譲った。
キャサリンの横を通る時、マックスが彼女を睨んだ気がして、彼女は一瞬、恐怖を覚えた。

だがすぐに、彼らを送るために後から部屋を出て来ていたジョンに、小声で声をかけられた。
「キャシー、後で部屋に来てくれないか」

キャサリンには、ピピコムの担当補佐の件だと察しがついた。
彼女は無言で頷いた。




>>次へ  >>目次へ



 ※作者注
  作品中のオズとキャサリンの会話の中で語られている内容は、1.5日目の章の内容になります。
  1.5日目の章を飛ばして読まれた方で、確認を取りたい方はそちらをご覧ください。



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