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02.14
Thu
「失礼します」

大きく深呼吸をした後、キャサリンは言って、ジョンの部屋の木製ドアを開けた。
座っていたトビ―が立ち上がって、にっこりと笑いながら、
「やあ、待っていたよ、キャシー」
と、キャサリンを迎え入れた。

ジョンも、ニコニコと満面の笑みを浮かべている。
キャサリンは、何故2人がそんなにニコニコとして彼女を迎え入れるのか分からず当惑したが、トビ―に促がされて部屋の奥へ進んだ。
そして、革張りの応接セットに座っているマックスをちらりと見た。

イタリア製なのだろうと想像できる明るいグレーのスーツを着ている彼は、素晴らしく洗練されていた。
少し細身のスーツが彼の体のバランスの良さを際立たせている。
ネクタイをせずにシャツの一番上のボタンを外していて、彼の少し長い髪とよく合って、堅苦しくない雰囲気を出している。彼はその長い脚を組んで座っているが、その足の先にある仕立ての良い革靴は、スーツに合わせて明るいブラウンだった。
まるで雑誌のページから抜け出てきたかの様なその姿と存在感に、キャサリンは圧倒されそうだった。

彼女は、自分が部屋に入ったあと、マックスがどういう反応をするのか気になっていた。
彼は驚くだろうか、とか、もしかしたら彼は私を見て怒り出すかもしれない、とか思ったが、良く考えれば怒られる理由は無かった。

一晩過ごしたのは2人の合意の上だったし、次の朝なにも言わずに逃げる様に帰ったことも、別に怒られる謂れは無い。逆に彼にとっては、一夜限りで都合が良かったかもしれない。
あのことは大人同士の一夜の過ちだったのだ。

キャサリンは開き直った。と言うより、この状況では開き直るしか術が無い。
そして部屋に入ってからは、いつもの様に毅然とした態度で、マックスに対応することを決めていた。

しかしマックスは、入って来た彼女に一瞥もしない。
キャサリンは、ほっと安堵しながらがっかりとした。
彼女は何故、そんな気持ちが起こったのか分からなかった。

「キャシー、ここへ」
トビ―がキャサリンに席を勧めた。
キャサリンは丁重に断った。いつも、来客時に呼ばれても着席はしない。
「彼女が総務部チーフのキャサリン・パーカーです。ああ、あなた達はすでに知り合いでしたね、紹介は
 いらなかったかな」
トビ―が言った。

キャサリンはその言葉を聞いて驚いた。
もうすでにその事が、ここにいる全員に知られているらしい。
どういう事だろう。
考えながら平静を装った。

「ああ、いや、アルバートとは初対面ですよ」
マックスはそう言って、キャサリンをその日、初めて見た。

笑顔でもなく、その表情からは何も読み取れない。
しかしキャサリンは彼と目があって、ドキリとした。
体中の血が、沸きそうだ。
居たたまれなくて、彼女はすぐに視線を外した。

彼の秘書が、座ったままだが彼女に挨拶をした。
「秘書のアルバート・フランツです、よろしく」
フランツ氏はにっこりと笑顔を付け加える。
「キャサリン・パーカーです、こちらこそ」
キャサリンも笑顔で返した。

ずっと笑顔のままでマックスの正面に座っているジョンが、キャサリンに語り掛けた。
「キャシー、ミスター・コナーズに、うちの会社に仕事を依頼することを、勧めてくれたらしいね。それ
 ならそうと、言ってくれれば良かったのに。きみがこれ程、うちの事を考えてくれていたとは、知らな
 かったよ」
ジョンは彼女を見た。

キャサリンには話が見えなかった。
そんな事をした覚えは無いが、とりあえず話を合わすしか無い。
「はあ。」
と、キャサリンは何と答えたら良いか分からず、気の無い返事を返してしまった。

ジョンは、そんなキャサリンの返事を気にもかけず、今度はマックスに笑顔を向けた。
「ミスター・コナーズ、彼女は、本当に仕事熱心でね。彼女の働きにはいつも、我々は助けられているん
 ですよ」
ジョンの言葉に、キャサリンは目を丸くした。
ジョンにそこまで人前で褒められたのは初めてだ。
彼女がピピコムのCEOの知人だと思って、多分にリップサービスをしているに違いなかった。

「ええ、彼女の仕事熱心さには、僕も敬服しています。正確には、彼女に勧められたわけでは無いのです
 よ、ミスター・ウィンターズ。彼女とは3年前にも御社のパーティーで会っていますが、その後、知人
 を介して再会しましてね。その時、仕事の話になったのですが、仕事の話をする彼女が、御社を誇りに
 思っていることが僕にもよく伝わりました。それで、その様な社員を持っておられる御社に、興味が沸
 きました」

マックスは、すらすらと話した。
キャサリンは、3年前の設立20周年パーティーでマックスと会っていた事をやっと思い出した。
彼女は、マックスに言われるまでその事を忘れていた自分に驚いた。

彼は、彼と彼女の関係を普通の友人として堂々と言ってのけた。
キャサリンはその彼の様子にも驚嘆した。
だが腑に落ちない点もある。
マックスは、彼女が彼に仕事の話をしたと言ったが、彼女はそんな事をした覚えは無い。
しかし彼の口からその事が語られると、それはまるで真実のようだ。
もっとも、覚えていないだけで、真実かも知れなかった。

「そうでしたか、なるほど。しかし、3年前のパーティーにご参加いただいていたとは、僕は存じ上げな
 かったな」
トビ―が会話に参加した。
ジョンがそれを引継ぐ。
「3年前の、設立20周年パーティーですな。ええ、覚えていますよ、あの時、直接ご招待はしておりま
 せんでしたね。確か、どなたかとご一緒に来られた」
「知人の会社が御社に顧問をお願いしていたんですよ」
マックスは、ジョンの質問にはぐらかすような答え方をした。

――そうだった、そのパーティーで彼はとても綺麗な女性と来ていたんだわ。
キャサリンは細かい個所まで思い出した。
そして何故か反発心を覚えながら、3年前のマックスのパートナーの女性を思い出し、彼はさぞもてるに違いない、と思った。
彼はお金持ちで、成功者で、若く、美しい。そして会話も洗練されているし、悔しいことに女性の扱いも上手い。
その事をキャサリンは、うろ覚えではあるが身をもって知っている。

キャサリンの頭に、あの夜の事が蘇る。
ぞくりとして、胸の頂に熱が集まるのを感じた。
彼女はその感覚を拭い去る様に、こぶしを握りしめた。
キャサリンは、彼がそうやって多くの女性と一夜を共にして来たんだろうと思った。
パーティーで一緒だった女性とも同じ様に過ごしたに違いなかった。

「ああ、そうでしたね、モデル事務所の。ご一緒の方はとても美しい女でしたね、彼女の名前はなんだっ
 たかな」
ジョンは、彼の癖である眉根をもみつつ、思い出しながら言い掛ける。

マックスの瞳から、それまでの温和な雰囲気が消えた。
どうやらこの話題を続ける気は無いらしい。
ジョンはマックスの無言のプレッシャーにたじろぐと、話題を変えた。

「ああ、いやその・・・。ところで、ミスター・コナーズ、先程おっしゃっていた、東南アジアでの不動
 産の件ですが、そちらをどのようにお進めになりたいと、お考えでしょうか」

マックスはジョンの従順な対応に満足した様に、唇の端を上げ、微笑みをジョンに向けると、横に座っている彼の秘書を見た。
阿吽の呼吸でフランツ氏が詳細について語り始める。

場は、完全にマックスに支配されていた。
ピピコムを世界的企業に押し上げた彼にとって、このぐらいの事は造作も無いのだろう。




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