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02.14
Thu
ふう、キャサリンは気分を表すようなねずみ色のスーツを着て、オフィスでため息をついた。
昨日、急な来客が決まり、そのためにジョン・ウィンターズとトビ―・マッカラン2人のスケジュール調整や資料の用意という、余分な仕事が増えたのだ。

ジョン・ウィンターズとトビ―・マッカランは、キャサリンが勤めるウィンターズ&マッカラン法務事務所の共同経営者だ。太めで白髪のジョンは、普段は弁護士らしくしかめっ面をしているが、今日はこの来客に有頂天なのか、少しそわそわして見える。ロマンスグレーで少しジョンより細めのトビ―の方も事務所を行ったり来たりして、キャサリンは気が散った。
それに、そわそわしているのは、彼らだけでは無い。
社内にいる女性社員全員が、そわそわとしている。
今日午後5時に現れる来客は、今、全世界に2億人のユーザーを持つと言われる巨大IT企業ピピコムのCEOだった。

昨日、月曜日にピピコムのCEO秘書、アルバート・フランツ氏から電話が入った。
『ご存知のように弊社では、社内に法務部を設置しておりますが、あらゆる可能性を検討するため、法務
 事案の第三者意見を求めるようにしております。今回、御社にご意見を伺いたい事案が発生いたしまし
 たので、一度、弊社CEOがご相談に上がりたいと申しております』

事務所内は、突然の電話にざわついた。
今までピピコムと取引をしたことは無かったし、ピピコムのような巨大企業を相手にしたこともなかった。W&M法務事務所の取引先は、せいぜい従業員が300人までの規模の企業が主だった。
なぜ、ピピコムがW&Mを指名するのか分からないが、共同経営者であるジョン・ウィンターズ、トビ―・マッカランは浮かれた。

相談内容はどんなものかまだ分からないが、上手くすればピピコムと顧問契約を結ぶことができるかもしれなかった。できなくてもピピコムと一度でも取引をしたことが今後のいい宣伝になる。
まさにビッグチャンスだった。

フランツ氏は、自分がピピコムCEOの秘書であることを証明するため、ピピコムのホームページを確認してその電話番号に掛けるように指示をした。
『そちらにお掛けになられたら、私の肩書、名前を告げてください。御社からの電話をつなぐ様に受付に
 伝えておきます』

果たして言われた通りにすると、電話は長く保留された後、フランツ氏につながった。
フランツ氏は今週の火曜日である今日、午後5時を指定した。
ピピコムのCEOのスケジュールの空きはその時間以外は無い、という。
電話をかけて来て、いきなり次の日に会いたいと言う。

ビジネス習慣としては無茶苦茶だったが、相手がピピコムのCEOであれば、こちらはそれに対応するしかない。
ジョンとトビ―2人のスケジュールをその時間とその前後を空けるため、キャサリンの月曜日の午後と今日は、すばらしく多忙になった。
おまけに今日は、以前から頭痛の種である新人のローザが上の空だ。仕事が進んでいない。
新人といっても彼女は、勤め始めてもう半年近くになるのに。

キャサリンはちらりと自分の席に座っているローザを見た。
今日のローザの化粧は、最近の彼女の普段より濃い。
服装も少し派手だ。明らかに目的が見え見えだ。さっきから唇のグロスを気にしてばかりいる。

ふう、キャサリンはもう一度ため息をついた。
こんな調子で、彼女は私が辞める前に仕事がきちんとできるようになるかしら。キャサリンは思った。

キャサリンはキーボードを叩きながら、時計に目をやる。
ピピコムのCEOが来る5時まであと少しだ。

もうあと2週間ほどで辞めることになっているので、通常業務をしながら自分の仕事の引継ぎ用資料を作らねばならず、今日も残業は決定したようなものだった。
ジョンとの約束で黙っているが、同僚のみんなにそのことを言えないのは、思ったよりつらかった。
キャサリンは少しでも仕事を片付けるため、パソコンとの睨めっこを続けた。


その時、事務所の入り口ドアが開いた音がした。
――ピピコムのCEOが来たのかしら。
キャサリンは思った。

みんな程では無いが、キャサリンもピピコムのCEOがどんな人物なのか、気になっていた。
設立6年ほどでピピコムを世界中の誰もが知っている巨大企業に成長させた彼は、まだ30歳に満たないという。
興味の無い人間はいないだろう。

W&M法務事務所は、オフィスが主に入っているビルの中層階にあり、1つのフロアの3分の1程を占めていた。
エレベーターホールからすぐ近くにW&M法務事務所と書かれたガラス張りの入口ドアがあり、現代的だが法務事務所らしくシックな雰囲気を演出している。

総務部は事務所の入口からすぐ近くにあり、受付カウンターと、来客に一旦座って待ってもらう待合席がその間にあった。それらは一つのエリアの中にあったが、木目調のパーテーションが適所に施されていて、キャサリンの座っている席からは、待合や入り口ドアは直接見えない。
受付カウンターが、総務部とそれらを区切るように設置されていて、カウンターに一番近い席に座っているローザが来客の応対をするのが常だった。

「お約束をしておりました、ピピコムのアルバート・フランツです」
事務所内の統一感を出すためにパーテーションと同じ木目調でできているカウンターに、スーツを着た男性が立った。

来た、とキャサリンは思った。
ローザがいつに無く素早く立って、カウンターで応対をする。
「お待ちしておりました」

キャサリンはちらりと受付を見た。
フランツ氏はその話し方から想像していたのより、若い男性だった。
細いフレームの眼鏡をかけていて、いかにもお堅いできる秘書という感じだ。

その後ろに、スーツを着た長身の男性が立っている。
だが、キャサリンの席からはまだよく見えない。
あちらがCEOだろう、とキャサリンは思った。

「弊社の共同経営者であるジョン・ウィンターズとトビー・マッカランがお待ちしております。どうぞ
 こちらへ」
流れる様に言うと、ローザが案内をする。

――全くあの子は。やればできるじゃない。
キャサリンは、今まで彼女に苦労させられてきた過去の経験から、ローザに少し呆れた。
カウンター前を横切るフランツ氏の後に続いて、CEOと思われる人物が通った。
その人物は総務部をちらりと見渡した。

キャサリンはその顔を見て、血の気が引いた。




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