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02.14
Thu
悪いことは重なるという。
その日、残業をする気分ではなかったので、いつもより早くキャサリンがアパートに帰った後、父から電話がかかってきた。
『今、大丈夫か?』
「ええ、大丈夫よ」
『珍しいな、こんな時間にお前に電話がつながるなんて』
父は携帯に掛けてきたのだが、大抵この時間だとキャサリンは仕事をしていて、いつもなら時間が無いと言って電話を切ってしまうのだ。そのことを父は言っている。

「どうしたの、何かあった?」
『いや、その、今度の日曜日、忙しいと思うが帰ってきて欲しいんだ』
父は遠慮がちに言った。


キャサリンの両親は離婚をしている。
キャサリンが高校卒業間近で、妹のソフィアが高校一年生の時だった。
子供も大きくなったので離婚をしてもいいと、2人とも判断したのだろう。両親の仲はその4年ほど前から冷めていたように思う。もともとの原因は父が定職につかないことだったが、言い争いを重ねるうちに修復不可能な状態になっていた。離婚前の頃になると、父はきちんと働くようになっていたが、2人は喧嘩すらしなくなっていて、離婚は淡々と進んだ。

キャサリンが子供の頃、当時、家庭の収入を補うために母は働きに出て家に居らず、代わりに仕事を始めても辞めてしまう父は、家に居ることが多かった。家に居る父は優しかった。
そのため、キャサリンは離婚の際、父と一緒に居ることを選んだ。
妹のソフィアが母を選ぶことは分かっていたし、自分も母を選んで父が独りになるのは、可哀そうだと思った。母には、『お前がお父さんを選ぶ事は分かっていたわ』と言われ、傷ついた。

キャサリンと父親は、街のアパートに引っ越した。
住んでいた小さな家は父の名義のままにし、父がローン残金を支払い、母と妹が無料でそこに住むことになった。
キャサリンはその後、専門学校に進学したので、そのアパートには長く住むことは無く、結局父には独り暮らしをさせた。ところが、一年足らずで母に恋人ができ、母がその家を出ることになった。妹のソフィアは、母と母の恋人と一緒に住むことを選ばず、その家で父と住むことを選んだ。

その後、ソフィアも巣立ち、父はまた独り暮らしを始めることになった。
キャサリンはニューヨークに就職が決まり、実家に帰ることが少なくなっていた。
ソフィアも大学進学をしてからあまり帰る事が無くなった。

そんな頃、久しぶりに父の家に帰宅して、キャサリンは驚いた。
家の中が何か月も掃除をしていないように汚い。父は独り暮らしが長いせいか、きれい好きな方だった。
父を捜すと、昼も近いというのに寝室で寝ていた。部屋にはアルコールの空瓶がたくさんある。
父はアルコール依存症になりかけていた。
それまで続けていた仕事も勝手に辞めていた。

急いで病院に連れて行くと、幸い、依存度はまだ軽く、カウンセリングのために通院を勧められた。
しかし、家で誰かが父に付いている必要があった。するとソフィアが大学を辞めて故郷に帰ると言い出した。
それは絶対にダメだとキャサリンは猛反対したが、ソフィアの意思は固かった。

キャサリンは、当時の経済的事情で自分が大学を諦め専門学校へ行かざるを得なかった事から、妹の大学進学を心から喜んでいたし、妹には大学を諦めて欲しくなかった。しかし結局、ソフィアは大学を辞め、地元に戻って就職をした。
もちろん、彼女は父と一緒に住んだ。

キャサリンは、一緒に住んで父のケアをできない代わりに、家のまだ残っているローンを支払うことにした。
働き始めたばかりのキャサリンの給料はまだ低かったが、家族のために何かしたかったし、切り詰めれば何とかなった。そして、なるべく毎週末に実家に帰るように心掛けた。
娘2人とカウンセリングのおかげで彼女達の父親は、だんだんとアルコールの量が減り、深酒をすることは無くなった。
そして、4年前にソフィアが結婚して家を出る頃には、きちんと自分でアルコールの量を管理できるようになっていた。

現在、ソフィアは父の家から車で30分ぐらいのところに彼女の主人、2人の子供と住んでいる。
キャサリンも、父の症状がひどかった時ほどではないが、都合がつけば父の顔を見に帰るようにしていた。
しかし、ニューヨークから故郷であるペンシルバニアのウィルクスバリまでは距離がある。
それを気遣ってか、父から帰ってきて欲しいと頼まれたことは、これまで一度もなかった。
アルコール依存症になった時でも、父は2人の娘に帰ってきてくれとは言わなかった。

その父が、今回、帰ってきて欲しいと言ったことに、キャサリンは何か只ならぬことが起きていることを感じた。


「ええ、いいけど、父さん、何かあった?」
キャサリンは聞いた。
『いや、どうだ、元気でやっているか』
父はキャサリンの質問には答えずに聞いてきた。
「元気だけど、父さん、どうしたのよ?」
彼女は質問に答えようとしない父親にいらつきながら、もう一度質問した。
『そうか。仕事の調子はどうだ? スティーブとは仲良くやっているのか?』
質問を無視され、一番聞かれたくないスティーブとの事を聞かれて、キャサリンはむっとなった。
「もう! はぐらかさないで。理由を言わないんだったら、帰らないわよ」

『・・・』
父は無言になった。
「ごめんなさい、きつく言うつもりじゃなかったんだけど」
『いや、済まない。・・・実は最近、食欲がなくなってね。医者に行ったんだが、・・・どうやら深刻な
 状況らしい。それで来週また受診する予定なんだが・・・、医者が家族にも来てもらえって言うんだよ』
「なんてこと・・・、深刻な状況って、どういう事なの? 体は大丈夫なの?」
『ああ、心配をしなくてもいい。体の方は大丈夫なんだが、来週の受診のことを、今度の日曜日にお前と
 ソフィアに相談したいと思ってね。帰ってきてくれるか?』

父ははっきりと言わないが、医師に何か言われているに違いなかった。
キャサリンは真っ青になった。

「帰るわ、もちろん」
『そうか、良かった』
父はホッとしたようだ。
「ソフィアには伝えたの?」
『ああ、お前に聞いてからにしようと思って、これからだ』
「そう。私は飛行機で帰るようにするわ。なるべく早い時間にスクラントンに着く便を探すわ」
『ありがとう。お前が娘でうれしいよ』
父は気弱になっている、とキャサリンは感じた。
こんな父は知らない。
すごく嫌な予感がした。

「便が決まったらまた電話をするわね。父さん、体に気を付けてね」
キャサリンが言うと、父は電話の向こうで心配するな、と言った。
心配するに決まっているじゃない、と思いながらキャサリンは電話を切った。

その日曜日、最寄りのウィルクスバリ・スクラントン空港に着くと父が迎えに来てくれていた。
電話の時の気弱な様子から想像していたとの違い、いつもの父だった。
少し痩せていたが、心配していたより元気そうな父の姿にほっとした。
スクラントン郊外の家に帰ると、ソフィアが夫のティム、3歳になる息子のショーン、今年生まれたばかりのマックスとすでに待っていた。

家族の再会を喜んで、元気いっぱいのショーンとマックスにひとしきり笑わされたあと、ティムは2人を庭へ連れ出した。これから始まるであろう深刻な話を邪魔しないために気を使ってくれたのだ。
彼女たちの父親は、医師に言われたことを彼女達に伝えた。
肝臓癌にかかっている可能性があること、精密検査を受ける必要があること、今度の診察の際には家族を連れてくることを。




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