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08.24
Sat
アルバートは息をするために、言葉を切った。
喉が張り付く。
ぐっと、唾を飲み込んで、張り付いた喉に潤いを与える。
ごくり、と自分の喉仏が上下する音が、やけに大きく聞こえた。

「そしたら、・・・そしたら親父が、大学に行けって、金を出してくれた。がんばれって、言ってくれた」

大きく息を吐きながら言った。

「それでも俺は、両親を心の底から許すことは出来なくて・・・、その後は・・・、奨学金を受けながら
 大学に行って、MBAを取った。在学中は故郷にほとんど戻らなかったし連絡も取らなかった。そんな
 俺でも、卒業式は両親に知らせる必要があると思って知らせた。来なくてもいいよ、と伝える事も忘れ
 ずに電話を掛けた。在学中、両親の方から連絡してくることも無かったから、疎遠な息子の卒業式なん
 て来たくも無いだろうと思ったし、俺も来てほしいとも思って無かった。・・・だけど」

くしゃり、と自分の顔が歪むのが分かった。

「親父と母さんが、来たんだ。卒業式。・・・親父、泣いてた。あの親父が。いつも顰(しか)めっ面し
 て、怒鳴ってたあの親父が。鼻の頭真っ赤にして。俺の事、息子でいてくれて、誇りだって」

アルバートは掛けていた眼鏡を外して、掌で目を覆った。
今でのあの時の親父の顔は、鮮明に思い出せる。
泣きながら親父は、こんな俺の所に生まれてくれてありがとう、と呟いた。
そこに、自分の知らない小さな小さな親父が居た。

熱いものが瞳に溢れそうになる。
そんな情けない姿をエヴァンジェリンに見せたくなくて、掌で瞳を覆ったまま、ぐっと唾をまた飲み込んだ。
瞼に触れる掌が冷たくて、瞳の熱さを奪ってくれる。

「ピピコムに入って、生まれた街やそれまでの生活を誰にも言わずにいた。両親に対するわだかまりは溶
 けていた。だけど、捨てたかった。何も無かった事にしたかったんだ。・・・俺の中には、今までの自
 分を恥ずかしいと思う気持ちがまだ残っているんだ。だから君に、言えなかった・・・。君に、蔑まれ
 るんじゃ無いかと、同情されるんじゃ無いかと、思って言えなかった。君に、嫌われたく無くて、言え
 なかった」

友人を見殺しにする様な事をしておきながら、自分は違うと信じ、その事を反省もせず、周りを憎んだ。
そのくせ、たくさんの人の善意に支えられて生きて来た。
彼らの善意を、生まれた街ごと過去に葬って、いっぱしの人間の様に過ごして来た。
彼らの助け手のおかけで、自分はここにいる事が出来ていると言うのに。

そしてその事で、彼女を傷つけていた。
そんな事にも気付かないくらい、自分は傲慢で利己的で愚かだ。
自分のプライドを守る事に精一杯で、彼女を思いやる事も出来なかった。

「アル・・・」

エヴァンジェリンはそう一言呟くと、膝で握りしめていたアルバートの拳に手をそっと添える。
その柔らかな触れ方で、彼女が自分を労ってくれていると分かる。
それは友人や知人に対する労りと同じかも知れないけれど、彼女の優しさが嬉しい。
こんな自分を蔑まず、見捨てずに、この寒さの中で自分の話を最後まで辛抱強く聞いてくれた彼女の優しさに、縋りたい。

「君が・・・、俺の事を許せないと、思う気持ちは分かる。俺は・・・俺は、自分の事ばかりで、君の事
 を少しも思いやらなかった。君がそんなに苦しんでるなんて、気付かなかった。君が深く自分の事を語
 らないのを、それでいいと思ってた。俺も、自分の事について語らなくていいから・・・。逆に語らせ
 ない様に仕向けていたのかも知れない。自分の生い立ちや両親に対するわだかまりを誰かに、君に、話
 さなくて良くてホッとしてた。・・・君を、そんな風に追い込んだのは俺のせいだ。悪かった・・・」

「・・・アル、そんな事、無い・・・。 私も、もっと早くあなたに告げるべきだった。あなたのせいじゃ
 無い・・・」

彼女の言葉がこの緊張した空気を和らげるためだと分かっていても、心からの言葉だと思いたいという気持ちが起きる。
彼女の優しい言葉を、信じていいのだろうか。

いや、信じたいとか、信じるべきか、では無いのだ。
そんな、自分を守る考えは捨てようと決めたはずだった。
彼女にもし次に会う事が出来れば、彼女と連絡がつけば、正直に、自分の気持ちを伝えようと決めていた。
もう、自分が傷つくことを恐れてはいけない。
彼女はさっき、アルバートの事を愛していた、と言っていた。
だから真実を伝えられなかったと。
過去形ではあるけれど、その気持ちがまだ彼女の中に存在してくれている事を願うしかない。

「エヴァ・・・、俺は、こんな俺でも許してくれるのなら、君とずっと一緒に、いたい。君とずっと暮ら
 していきたい」





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