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08.17
Sat
やっぱり、ドクターは正しかったな、とアルバートは治まっていた胃のむかつきをまた感じながら思った。
本当に、自分の独善的な行動が悔やまれる。
今だって、彼女に先に告白をさせて、自分は黙っていた。
先に話さなければならないのは、自分の方なのに。
本当に意気地が無い。

「エヴァ、俺がNYで生まれて育ったことは知ってるよな・・・」

アルバートは呟く様に言った。
エヴァンジェリンが、分かれた、という言葉を使ったことが心に引っ掛かっているが、その事は敢えて無視した。
彼女は、アルバートの言葉の意味が分からずに、俯かせていた顔を少し上げてこちらを見る。
その表情は、苦渋に満ちている。

彼女にそんな表情をさせているのは自分なんだと、アルバートは辛くなる。

「俺は・・・」

アルバートはごくりと唾を飲み込んでから続けた。

「俺は、サウスブロンクスの近くで育った。良く知っていると思うけど、あまり治安のいい場所じゃ無く
 て、あまり裕福だったとは言えない。そこら辺の家庭ではよくある話の通り、親父は、飲むと母さんを
 殴って、毎日みたいに二人は喧嘩して。・・・俺はそんな家庭に育った子供が通る道を、当たり前みた
 いになぞった生活をしてた。中学に入る頃には、連れとマリファナをやって、近所の店で万引きをした。
 コカインまではやらなかった。いや、一度はした。けど、コカインをやり出すと後は落ちていくだけな
 のが分かってたから、それ以上はやらなかった。俺と仲のいい連れはギャングに入らず、何とか暮らし
 てた」
「アル・・・」

エヴァンジェリンは驚いた顔をしている。
彼女にこの事を話すのは初めてだ。
いや、大学に入ってから、誰にもこの話はしていない。
この事を伝えた時の、彼女の反応が怖かった。
だから、今まで言えなかった。

「この、右腕にある傷、ガラスで切ったって言ってたけど、嘘なんだ。高校に入ってから巻き込まれた
 喧嘩で、相手が持ってたナイフで切られた。相手が振りかざしたのを避けようとして、腕を切られた。
 相手が銃を持っていなかっただけ、ラッキーだった」

アルバートは言いながら、スーツの下に隠れて今は見えない右腕の傷を指した。
エヴァンジェリンに微笑みかけたつもりだが、自分でも情けない表情をしている事が分かる。
じっと自分を見つめる彼女の瞳に、侮蔑の色が含まれていないかが、気になる。
こんな育ちの悪い自分を、軽蔑していないだろうか?
彼女の瞳を見ることが出来ない。

「・・・それから暫く経って、友人の一人がコカインのやり過ぎで死んだ」
「アル、何てこと・・・」

彼女は言葉と同時に、悼ましさを表情に表す。
アルバートは唇を噛みしめた。
まだ全てを話していない。
彼女に、きちんと全てを伝えなければならない。

「そいつが、コカインをやってるのは知ってた。だけど、俺たちは真剣に彼を注意したことは無かった。
 そういうのは個人の自由だって思ってた。冗談みたいに、止めとけよ、廃人になるぞ、って言う事は
 あったけど、それだけだ。それ以上言う事はしなかった。・・・けど、俺は、あいつが死んだ事ですご
 く怖くなった。今自分の住んでいる街が、そんな生活が、すごく怖くなった。俺もこの街にいる限り、
 遅かれ早かれそうなるんじゃ無いかと思った。こんな生活を続けていたら、何かのトラブルに巻き込ま
 れて死ぬか、良くても両親みたいにお互い罵りあって貧しい生活で自分をすり減らす。・・・そんな風
 に成りたくなくて、俺は自分のそれまでの生活を変える事にした」

友人に真剣に生き方を変えさせようともせず、ラリッているあいつを見て笑い転げていた。
そんな若い頃の自分に反吐が出る。
そんな人間の癖に、自分は違うと思っていた。
そこから脱出してやると、夢を見た。

「高1の途中から、勉強をし出した。その街から抜け出すのには、とりあえず勉強を頑張って、大学に行
 こうと思った。今考えると、世間知らずの無謀な考えだったと思う。でもその時はそれしか方法が浮か
 ばなかった。ただ俺は、ラッキーだったんだ。高校の担任がそんな俺を喜んでくれて、放課後、塾にな
 んか行けない俺に、勉強を教えてくれた。毎日。それで、俺の成績はどんどん上がり出して、それまで
 の連れとは疎遠になった」

アルバートは凍えた指を握り締めた。
指の先の感覚が無くなってきている。

「両親は、勉強をし出した俺に何も言わなかった。高2の終わりに進路を決めなきゃならない時に、俺は
 親父に大学に行きたいって言った。成績はいい線行くようになってた。そしたら親父は鼻で笑って、俺
 を馬鹿にした。こんな街で生まれて、何考えてんだって言われた。金なんか無いって、そんな夢みたい
 な事考えるなって。俺は悔しかった。絶対に見返してやるって思った。お前らみたいな人間にはならな
 い、そう思って、がむしゃらだった」

もう彼女の顔は見れなかった。
だがエヴァンジェリンがじっと自分を見つめている視線を感じる。
彼女は何故、何も聞いてこないんだろう。
彼女の沈黙が息苦しい。

「担任の先生が、そんな両親を一生懸命に説得してくれた。・・・ほんとにすごく良く、してくれたんだ。
 それで、親父たちは渋々、受験に同意して、俺は受かった。実は、受かっても入学金とか授業料とかが
 払えないと思ってたから、俺は大学に入ることを内心諦めてた。合格するだけでも、親父たちやその街
 を見返してやれると思ってた」





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