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08.12
Mon
彼女の告白に、アルバートは煙草を手に持ったまま、彼女を見た。
アイスブルーの瞳が更に光を求める様に、見開いてしまう。

「今日は、マジシャンの助手の代役で来たのよ。でも、その代役でばれちゃうなんてね・・・。ピピコム
 社の名前が出ていなかったから、大丈夫だと思ったんだけど・・・」

彼女は泣きそうな笑顔を見せる。

「3年前、あなたと初めて会った時、私、女優としても駆け出しで、ほとんど仕事も無くて、オーディ
 ションを受けては落ちる日を繰り返してた。もちろん他にアルバイトもしていて、住んでるアパート
 の近くのコーヒーショップでウェイトレスをしてたけど、なかなかその収入だけじゃやって行くのは
 大変で・・・。よくある話ね」

彼女は自分の両手をじっと見ながら語り出した。

「エディ・・・もう知ってるわね、彼とはアクターズ・スクールで知り合って、その頃から一緒に暮らし
 ているの。彼がゲイだってことも、もう分かってる、わよね?」
「・・・ああ」

アルバートはワシントンハイツでの一件を思い出しながら言った。
エディはあの一件のことを彼女に報告したんだろう。
あれで、自分の嘘がばれたと分かったのだろうか、エヴァンジェリンはアルバートからの電話を取る事すらしなくなった。
彼女の声は落ち着いている様に聞こえるが、相変わらず、手の指の組み直しを繰り返している。

「それで、当時、レンタル友人っていうアルバイトをしてたの。お金を貰って、依頼者の希望の友人とし
 て振る舞うの。あっ、そういういやらしいバイトじゃないのよ。ほんと、健全なバイト。あなたに会っ
 た集まりには、その仕事で行った。女性からの依頼で、医者の友人が必要だってことで・・・」

アルバートは先程の煙草を吸いながら、彼女の言葉を聞いていた。
煙草は短くなっている。

「ちょうど、ドラマ『ドクター・マッコイ』のオーディションがある2ヶ月程前だった。それで、医者を
 演じてみるのはオーディションに有利になるかも、って思った」

彼女はそこで言葉を切る。
アルバートが何も質問してこない事に、多少の疑問を感じているのかもしれない。
それでもアルバートは、何も言わずにいた。
彼女は、組み直しをし続けていた両手の動きを止めた。

「その後は・・・、あなたと付き合い始めてからは、その事を、本当は医者じゃなくて女優だって、言え
 なくなってしまった。いつも言おうと思ったけど、言えないでいる内にどんどん月日が過ぎて行って、
 言い出せなくなってた。・・・付き合い始めの時に受けた『ドクター・マッコイ』のオーディションで、
 受けた内科の女医役は落ちたけど、端役だけど、内科の看護師の役が貰えていたの。最初は余り出演の
 無い役だったんだけど、途中から準レギュラーみたいに露出が増えて来て、あなたにいつばれるかと、
 いつもビクビクしていた」

彼の煙草はほとんど灰になって、フィルターと少しの部分だけになっている。
アルバートは彼女が言葉を切ったのをきっかけに、携帯灰皿を取り出して煙草を押し付ける。

――ああ、それでか。

アルバートは納得していた。
CEOの結婚式でマスコミのカメラマンに不自然なくらい反応していた件と、ダニエラ部長が言っていた件が頭に浮かんだ。
妙に彼女はあの日、苛々としていた。

「だから、か? だからあの結婚式の日、あんなに・・・、いや、悪かった」

アルバートは言葉を途切れさせた。
あの日、彼女があんなに取り乱したのは、その自分の嘘がばれそうだと感じたからなのだろうか、と思った。
だがあの日の事は、二人にとって最悪の思い出だ。
彼女から売られた喧嘩だったが、あんな風に彼女を無理やりに抱いてはいけなかったと後悔している。
あの日の事を、わざわざ思い出す必要は無い。

「あの日、私は・・・」

エヴァンジェリンは、喉が引っ付いた様な、裏返った声を出した。
彼女にとってこの告白は、辛いものだろうと分かる。
そんな彼女の肩を優しく抱いて、もういいんだよと言ってやりたいが、自分にはそんな資格は無いんじゃないかと、腕が固まってしまう。

「あの日、私は、あなたと久しぶりに会うのが嬉しくて、あなたから6ヶ月ぶりの電話が嬉しくて・・・。
 だけどあなたは、全然冷たくて。前から他の女性がちらちらしてたし、6か月ぶりなのにって思って、
 あなたに腹が立った。本当は、嘘を付いてずっと付き合ってきていたから、連絡が来なくなった時点で終
 わりだと思ってた。だけど、忘れられなくて・・・。電話が掛かってきたら、もう、嬉しくなってた」

彼女は一気に言うと、大きく息を吸って、言葉を続けた。

「私、自信が無かったの。あなたに好かれているっていう自信が。付き合っている3年間、あなたは二人
 でいる時は優しかったけど、いつも二人で会うだけで、友人に紹介してくれるわけでも無いし、家族に
 紹介してくれるわけでも無かった。・・・あなたに嘘を付いていた私が言えた義理じゃないのにね。でも
 私、あなたの態度を、あなたの反応を確かめながら、いつもビクビクしてた。・・・あなたを愛してた。
 あなたがそういう事を言い出さないのは、私とその程度の関係でいたいからだって、思って。だから、
 自分もあなたに家族を会わしたり、友人に会わす必要は無いんだって、思ってた。あなたに嫌われたく
 無くて、自分の行動を正当化していたのかも知れない・・・」

エヴァンジェリンは言葉を吐き出すと、両手で顔を覆った。
アルバートは彼女の言葉を聞いて、苦痛に瞼を閉じた。
冷たくなって来た指をを握りしめる。

彼女を追い詰めていたのは、自分だった。

アルバートの自分を守る為の態度が、彼女に嘘に嘘を重ねる行動を取らせていたと、痛烈に実感する。
エヴァンジェリンは顔を覆っていた掌を下げると、俯いたまま、苦しげに微笑んだ。

「ごめんなさい、ずっと嘘を付いていて。もうあなたとは別れたのに、今更みたいに本当の事を言うな
 んて、ね。本当はあのまま私の事、忘れて欲しかったから、ずっと黙っていようと思ってたの。ずる
 いわよね。でも、バレちゃった・・・」





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