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08.08
Thu
エヴァンジェリンはタクシーの後部座席に腰を半分掛けていて、片足が道路についているだけという格好だった。
彼女はアルバートに掴まれた腕を振り解こうとしながら、タクシーの運転手に、早く出して、と声を掛けたが、そんな状態で車を発進できるはずが無かった。

二人はタクシーのドアが開いたまま、暫く押し問答をした。
タクシーの運転手が呆れて、エヴァンジェリンに、痴話喧嘩をするならとっとと降りてくれ、と言い、彼女は仕方なく車を降りる。
彼女は、覚悟を決めた、という表情を見せた。



*****



ホテルから少し離れた場所にあるビルの植栽の縁に、2人は腰掛けていた。
19時を回った程度だが、冬のNYには夜が訪れていて、ネオンと街灯とまだ仕事をしているオフィスの明かりが煌びやかだ。
かなり冷え込んできているが、雪も積もっていないし、この時期にしては温かい方だろう。

「コーヒーとか要るか?」

アルバートは彼女に話し掛けた。
ここに来るまで二人は黙ったままだった。
カフェに入ろうとしたが、エヴァンジェリンが嫌がったのでそのまま歩いた。
どこに行くという宛も無かったので、何となく、大通りをすこし曲がった所にあるここに落ち着いた。

目の前を、コートを着たビジネスマンやキャリアウーマン達が前を通り過ぎていく。

彼女は言葉を発さず、ただ首を振るだけだった。
アルバートは黙っていた。
勢いよく彼女を捕まえたはいいが、自分からこの沈黙を破る術(すべ)が分からなかった。
まだ少し、胃のむかつきは残っている。
ただ、彼女がもう逃げ出さないであろう事は分かる。
彼女が何かを決心している事が感じられた。
だから、待つことにした。

スーツの内胸ポケットから煙草を1本取り出した。
スーツの形が悪くなるので、煙草は箱に入れず裸でポケットに数本入れている。
それに火を点けてゆっくりと吸った。

――寒いな。コートを忘れて来たし、バッグも置いたままだ。

そう思った。
彼女が口を開く。

「何も聞かないの?」

小さく紡がれた言葉に、彼女を横目で見た。
彼女はコートの前をぴっちりと締めて、俯いている。
そのコートはCEOの結婚式に着ていたものと同じだ。
視線を前に戻した。

「ん・・・エヴァが話したくなったら、話せばいい」

そう言って、煙草を一口吸った。
むかついた胃に、煙がしみる。

アルバートは本気で、彼女が話したく無かったら話さなくてもいいと思っていた。
彼女と会えなかった間に、彼女の嘘や隠された真実を暴く前に、自分の事を正直に彼女に伝えるべきだと思う様になっていた。
傷ついてはいたが、彼女を責める権利は自分には無い、と理解していた。
そして、今日ダニエラに言われた言葉で、それは後押しされた形になった。
だがまだ、勇気が無い。

彼女の顔が、驚きと共にこちらを見るのが視線の端に映る。
瞬間、彼女は泣きそうな表情になった。

「わ・・・私、本当は医者じゃないの」

彼女はそう絞り出して、また俯いた。
アルバートは彼女の次の言葉を待ったが、彼女はそのまま口を噤(つぐ)んでしまった。
なので、また煙草を口に運んだあと、苦しさを吐き出す様に眉間にしわを寄せて言った。

「・・・知ってる」

彼女の肩がピクリと弾んだ。
そして、前で組んでいた両手をせわしなく組み直しだす。

「私、本当は女優なの」





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