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05.16
Thu
――あ。
「私、日曜日は、駄目なの。・・・実家に戻る予定がある」

先週シンガポールへ行ったため実家に帰っていないので、この週末は必ず帰ると父に約束をしていた。
もうすぐ実家に戻ってしまうのだから、約束を反故にしたって父は怒らないだろうが、それはキャサリンの気が済まなかった。

「・・・そうか。じゃあ、無理だね」
マックスは、はっきりと落胆をした。

――彼は、なぜ、私を両親に会わせたいと思うのだろう。
キャサリンの心を占めたのはそれだった。

元々夢見がちな性格が頭をもたげ、両親に会わせたいという事は、自分と結婚を前提として付き合っていると彼が思っているのでは無いか、と希望が浮かぶ。
だがその性格のため、以前失敗をした。浮かれて期待して、大きく傷ついた。
それに付き合っている女性を両親に紹介するだけで、結婚を前提にしていると期待するのは飛躍のし過ぎだ。
だが、キャサリンは彼の言葉が嬉しかった。

しかし彼女の心が小躍りを始めるのと同時に、マックスに嘘を付いているという後暗さが覆い被さる。
正確には嘘では無く真実を黙っているだけだが、苦い物が胸から込み上げる。

その時、ブブブブブ・・・、と携帯のマナー音が鳴った。
2人の視線は音がする方に向く。
それは、キャサリンの鞄の中から発せられている。
彼女が鞄の中から携帯を取り出し携帯の画面を見ると、そこにはスティーブと言う文字が表示されている。
キャサリンはその画面を一瞥すると、終話ボタンを押した。
携帯のバイブレーションは、ぴたりと止まる。

「出ようか」
マックスが最後に出されたコーヒーのカップを置いて、言う。
「ええ」
キャサリンは答えて、彼と一緒に席を立った。

クロークでコートを受け取り、キャサリンはそれを羽織っている時に彼に声を掛けた。
「あの、マックス・・・」
ん? と言う様に、マックスが彼女の方を見る。

キャサリンは彼に、来週の月曜日でW&Mを辞めて故郷に帰る事を伝えようと、心に決めた。
父が肝臓癌にかかっていて余命幾ばくも無いのだと。そのため、来週末には、アパートも引き払うのだと。これは、あなたと再会する前に決めていた事なのだと。
両親にまで会わせたいと言ってくれるマックスに、これ以上黙っているのは無理だ。
彼はキャサリンを、恋人として尊重してくれている。
例えやって来る未来がキャサリンにとって辛い物だとしても、だからと言って、自分の取っている行動は臆病すぎると、彼女は悟った。
それは、マックスから2人の関係をきちんと示された事で芽生えた、臆病者の打算的な悟りだったが。


と、また携帯が振動する音が聞こえる。
彼女はそれを無視しようとした。

「鳴っているよ」
同じ様にコートを羽織っていたマックスがキャサリンに言う。

「ああ、そう」
キャサリンはマックスに促がされて携帯を鞄から再度取り出した。
そこには、またスティーブの名前が表示されている。
彼女は、出るべきか迷った。
なぜ、今頃になって彼から電話が掛かって来るのか分からない。別れてからもう1ヶ月は経つ。その間、スティーブからは何の連絡も無かったのだ。それに、タイミングが悪い。
マックスと会っている時に、昔付き合っていた男からの電話に出るなんてあまりいい考えとは言えない。
このまま呼び出しが切れてくれればいいのに、と思ったが、携帯はしつこく振動している。

「出た方が、いいんじゃないかな?」
マックスは、そんなキャサリンの気持ちを知ってか、携帯に出る事を促す。

「ちょっと、失礼するわ。先に降りているわね」
キャサリンは支配人に声を掛けられているマックスを置いて、エレベーターのボタンを押した。そして彼女は通話ボタンを押して、やって来たエレベーターに乗り込んだ。


『久しぶりだね。元気にしていた?』
「そうね、久しぶり。元気よ。あなたは?」
『・・・元気だよ』

キャサリンは店を出て、セントラルパークを眺めながら携帯を耳に当てていた。
ワインで火照った頬に当る冷たい風が、気持ちいい。

「どうしたの? 電話を掛けて来るなんて」
『君の声が聴きたくなった、って言う理由じゃ、駄目かな』
「スティーブ・・・」
『迷惑・・・だったかな?』
「いえ、迷惑だなんて、そんな事は無いけど・・・」
『あまり、僕からの電話が嬉しそうじゃないね』
「そんな事は無いわ。でも、久しぶりだから、驚いただけよ。それに今はあまり長く話せないの」
『もしかして、もう恋人が出来た?』
「いえ、・・・そうじゃないわ」

恋人が出来たのか、と問われれば出来たのだが、わざわざスティーブに言う必要は無いとキャサリンは判断した。

『そっか・・・。今度NYに行く用事が出来たんだ。その時に会えないかと思って。食事を一緒にしよう』
「私、NYを離れるの。・・・来週には故郷に帰るつもり」
『えっ、W&Mは辞めるのか?』
「そう、父が病気なの」
『お父さんが? 深刻な病気なのかい?』



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