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05.04
Sat
「CEO、ブラウザのVer.アップのプロト(試作)について、ご報告させていただきますわ」
呆然としているCEOを現実に戻すため、ダニエラ部長は言った。

ピピコムでもインターネットブラウザソフトを開発し、発表している。だがそれはあまり有名では無く、使用者も現在はごく限られた人数にすぎない。ソフト開発部では、そのピピコム製のブラウザソフトの市場シェアを伸ばすべく、現行のブラウザソフトの改編を行っている。
その事についてダニエラは報告に来たのだ。

「・・・ああ、聞くよ」
彼女の言葉で、彼は業務を思い出したようだ。
二人はCEO室に消えた。


アルバートは自分の席に戻ると、やりかけていた資料の作成にかかった。
そして、彼女がさっき言っていた事は、きっと自分のことを指しているんだろう、と思った。

――手っ取り早く、他人に迷惑にならない程度で発散させる、その方法は、人それぞれ、か・・・。
まるで、今の俺が何をしているか知っているみたいじゃないか?

だが、彼女は誰にでも当てはまる一般論を言っただけ、とも取れる。
しかし、〝ドクター〟に限ってそんな事は無いだろう、と思う。
彼女は明らかに、アルバートに対して言っているのだ。

アルバートを責めてはいないことも分かる。
それでもいいのよ、という相手を認め、受容する優しさを彼女の瞳の奥に感じた。
さすがに彼女は、心理学修士だと思わざるを得ない。

――だが、それがどうした?
アルバートは思った。
彼は心理学者なんか、何の助けにもならないと思っていた。

アルバートは作業に集中した。
とっとと会議資料を作り上げて、CEOのスケジュール調整に手を加える箇所があった。それについて、相手先と連絡を取る必要があるが、まだ相手は在社の時間では無いはずだ。今のうちに目の前の資料をまとめたい。
だが、作業に集中しようとすると、CEO宛のメールやチャットが入ってくる。
それらに応対していると、なかなか作業は進まない。いつもの事だった。


やっと、まとめ作業を再開すると、半透明の間仕切りの向こうに人影が見えた。
そしてドアが開く。

「じゃ、失礼しますわ」
そう言って、ダニエラ・ファース部長がCEO室から出て来た。
アルバートは立って、廊下へと続くドアを彼女のために開けようとする。

「いいのよ、アル、座ってて」
彼女は手をひらひらとさせて、彼を座らせると、すたすたと廊下側のドアに向かって歩いていく。
だが彼の机の前を横切る時に歩みを止めると、少し屈みこんで彼の瞳を覗き込んだ。

「そんな綺麗なアイスブルーの瞳を、眼鏡で隠している意味は、何なのかしらねぇ? 興味が沸いちゃう
 わ・・・」

小さいがアルバートに聞こえる様に呟くと、アルバートの反応を確かめもせずに廊下へ続くドアを開けて、
「じゃあね~。相談があったら、いつでも乗るわよぉ」

と、もう一度手をひらひらと振って、背中を向けたまま去って行った。
その左手の薬指には、結婚指輪が光っている。

――まったく、人を喰った様な人だな。
だが、彼女には憎めない雰囲気がある。
アルバートが彼女に感心していると、CEO室のドアが、ガチャ、とまた開いた。

「アル、彼女は既婚女性だぞ」
CEOは、ドアを開けていきなり言った。

「知ってますよ・・・」
「しかも、お前より、16も年上だ」
「・・・そうですね」
「・・・?」
CEOは、アルバートの淡々とした様子に首をかしげている。

はぁ、とアルバートは大きく溜め息をついた。

「今のは、彼女流の遊びですよ。ご心配のような事は私と彼女の間には何もありません。ある筈が無いで
 すし。彼女のご主人もよく社内のイベントに参加されるのに、そんなややこしい事、する訳無いじゃな
 いですか。それに、彼女はとてもご主人を愛してらっしゃいますよ。浮気なんかされるような方ではな
 いでしょう」
アルバートは、すっかり勘違いしているCEOに呆れて言った。

「・・・そうか、ならいいんだ」
アルバートの勢いに、CEOは少し気圧されたようだったが、すぐに口の端を少し吊り上げた。
アルバートは、そのいたずらっ子の様な彼の様子に何か言いたそうだと察し、その隙を与えないために言った。

「CEO、さきほど、法務部からM&A(企業買収と合併)の案件で、CEOにご相談したい事があるって
 チャットが入りましたよ。お手隙でしたら、法務部のジェイコブに連絡してやって下さい」
「ふぅ・・・ん、ジェイコブから? 何か進展があったかな?」
CEOは腕組みをして、片手で顎を撫でる。

「急ぎ、のようでしたよ」
アルバートはCEOに、早く仕事をしろ、と言わんばかりに目配せをした。

「連絡を取ろう」
アルバートの冷たい目線に、逃げる様にCEOはドアに手を掛けた。
しかし、
「アル、でもさっきのダニエラは、真剣だったように見えたぞ」
と、ドアから身体を半分出した状態で、アルバートに声を向ける。
その顔は、アルバートをからかう様に、ニヤニヤと笑っている。

確かに、40過ぎの玉ねぎ頭のダニエラ・ファース部長に、秘書机に押し倒されそうになっている自分の姿は、ある意味、滑稽だっただろうと思う。彼女が年増だという意味では無い。
彼女は年齢の割には若く見えると思うが、ラフな格好をした年上の女性に迫られている、三つ揃えのダークスーツを着ている男性秘書の図は、まさしくホラーだ。

アルバートはCEOをジロリ、と眼鏡越しに睨んだ。
――早く仕事しろ。

CEOは、もう一度ニヤリと笑うとドアの向こうに消えた。




===END==


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