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04.23
Tue
マックスはそんな彼女に軽くキスをして、部屋を出る。
キャサリンは彼を玄関で見送って、ドアを閉めた。
ガチャリと、ロックを掛ける。


――こんなもの、か。

キャサリンは終わりの予感を感じ、やるせなかった。

今日彼は、キャサリンに明日の約束を取り付ける事はしなかった。
何一つ、未来を感じさせる言葉を言わなかった。
シンガポールを発った後も、ずっと変わらずにいてくれたが、それはマックスの優しさからの行動だったのかも知れない。

キャサリンは車の中で彼に、この後どうするのか、明日はどうするのか、と聞きたかったが、怖くて聞けなかった。そんな事を聞くと、彼に彼女気取りだと思われそうで嫌だった。

別に、付き合おうと言われたわけでは無い。
好きだ、と言われたわけでも無い。
もちろん、愛してるとも言われていない。

これは、いわゆる、大人の関係なのだ。
彼が2人の関係について、少しでも未来を感じさせる言葉を使わないのがその証拠だ。
友人の延長で、体の相性がいいからお互い楽しんでいるだけ。

2人の間には、触れてはならない目に見えないが糸が張り巡らされている。
その張り詰めた糸は、一見脆く、すぐに取り払う事が出来そうだが、その内の一本にでも触れるとその振動が全てに伝わり、今立っている足場をガラガラと崩してしまう程の威力を持っている。
それに触れない事、その糸をじっと見つめない事、ルールを守る事がこの蜜をずっと長く味わうためのコツだ。

しかし、その知識を生かすチャンスも無いかも知れない。
もう彼は彼女に飽きたのかも知れなかった。
あんなにあっさりと帰って行ったのが、その証拠だ。
シンガポールで身体を重ねる前は、あんなに熱烈に、周到に用意をしていたと言うのに。

釣った魚には、餌は与えられない。

ふふっ、とキャサリンの口元に小さな笑いが起きる。

――だから、止めておこうと思ったんじゃなかったの? だから彼に惹かれているのを認めたく無かった
  んじゃないの? これは、分かっていた事でしょう? 予想できていたじゃない。

こんな気持ちになるのは分かっていた。
あんな、魅力的な年下の男性に熱を上げるなんて、馬鹿げている。
遅かれ早かれ、彼の興味が自分に無いと分かった時、こんな風に傷つくのは分かっていた事だ。
ただ少し、彼に掛かっていた魔法が解けるのが早過ぎただけ。
シンガポールという国の熱さが彼に吹き込んだ熱は、NYの寒さが取り去ってしまったらしい。

キャサリンはドアを離れると、室内のスーツケースとトートバッグとシンガポールで増えたバッグを寝室へ運んだ。そして、荷物の片づけを始める。
何日か離れていただけなのに、ずいぶんと長くこの部屋を留守にしていた様に感じる。

トートバッグの中に入れていた身の回り品を出してバスルームへ。
シンガポールで買ったお土産を分けて、スーツケースの中の服を壁に掛けて・・・。

ぱたり、とベッドの上に広げた黒いドレスの上に染みができた。そのちょうど首の所には、スクエアモチーフのネックレスが光っている。
シンガポールでの素敵な思い出がキャサリンに、広げたドレスの首の箇所にネックレスを置かせたのだ。

――あれ?
キャサリンは自分の瞳を触った。
濡れている。

――私、泣いてる?

はぁぁ、と彼女は大きく息を吐いて天井を見上げた。
それ以上涙がこぼれない様に。

――そんなにショックだったのね、彼の態度が。
自分自身の思いを思い知らされた。

そう、彼に夢中だ。
彼とずっと一緒にいたい。彼に微笑んで欲しい。彼に、自分は特別なんだといつも感じさせて欲しい。彼を独占したい。彼にずっと見つめられていたい。彼が他の女性に、仕事と言えども微笑みかけるのが嫌だ。彼に、愛してると囁かれたい。

これは、愛なのだろうか。
愛とは、もっと穏やかなものでは無いだろうか。
こんな強烈な所有欲を伴った愛なんて、知らなかった。
ぎりぎりと胸が締め付けられる苦しさを伴った愛なんて、知らなかった。


キャサリンは天井を見つめていた視線をベッドに移すと、自分の女々しさと憐憫を断ち切るために、ドレスをぐっと掴んで壁に向かって投げつけた。
しかし布で出来ているドレスは壁にたどり着く前に、ふわりと踊って床に落ちる。

泣かない。泣いたりなんか、しない。
これは、自分で決めた事。こうなると分かっていて飛び込んだ。
それが予想より早く訪れただけ。

それに本当にこれで終わりとは限らない。
2~3日後、もしくは1週間後に彼から会いたいと、電話が掛かって来るかも知れない。
彼の気の向いたときに。
でも1週間後にはキャサリンは仕事を辞めて、故郷のスクラントンに帰る。
これは期間限定の関係で、予定調和。1週間、予定より早く終わっただけ。

そのつもりだったから、シンガポールで彼との時間を目一杯楽しんだ。
もう2度と彼の熱い瞳に見つめられる事は無いと、彼に見つめられる度に思いながら、見つめ返した。
NYを去る自分への、最後のお土産だと思って。
それ以上味わう事の出来ない彼の味を、味わい尽くそうと夢中になった。

――それに、上手くやれたじゃない?
さっきのマックスの帰り際、自分は大人の女性として、上手くやれた。
彼に縋らす、爽やかに、挨拶を交わすことが出来た。

――やればできるのよ、私も。

キャサリンは、彼に縋らない代わりにプライドに縋った。



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