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04.18
Thu
「何も食べなくてもいいの?」
「やめとくよ。どれも味の想像ができないな・・・。香辛料がすごそうだ」
店内に写真入りで派手に張り出されているメニューは、名前も見た目も初めて見るものばかりだった。

「でも、おなか減らない?」
「少し減っているけど、・・・そうだな、ピザが食べたいな」
「ピザ! そういえばあなた、ピザ配達をしてたわよね!」

キャサリンは唐突に思い出した。
マックスと再会してから、驚くことばかりだったことと、あの夜彼に泣きじゃくり迫ったという事実が恥ずかしくて彼が何故ピザ配達をしていたかを問う事を、すっかり失念していた。

「・・・してたね」
マックスは、2人が会話をしている間にウェイターが運んできた冷たいミントティーを飲みながら答える。
ミントティーは、これも中東風なのだろうか、いつも飲み慣れたクリアな茶色では無く、濁っている。
キャサリンは、彼の平然とした様子に少しムッとした。

「なぜ、あなたみたいな人がピザ配達なんかしていたの?」
「・・・なぜって、マウンテンバイクでピザを配るのは、ジムに通うよりいいかなって思ったんだ」
「なにそれ、そんな理由なの?」
キャサリンは余りにもあっさりと答えるマックスに、反発心を覚える。

「いや・・・、君は金持ちの気まぐれだって言うかもしれないけど、僕はもともと、仕事中毒って言って
 もいいぐらい仕事ばかりして来ていて、会社に泊まる事もしょっちゅうだったんだ。最近、仕事量を減
 らすように調整すると、今度は空いた時間に何をしたらいいか分からなくなった。それで、ネットを見
 ている時に近所のピザ屋がバイト募集をしているのを見つけたから、おもしろそうだと思ったんだ」
「身分を隠して?」
「ピピコムのCEOですけど、雇ってくださいって?」
「そんな人、雇う訳ないわ」
「・・・仕方ないだろ。時間が空いているとパーティーの誘いばかり来るし、行くとピピコムのCEO
 だってことで、知らない相手でも僕を知っているし、話し掛けてくる。少し、そういう生活にうんざり
 していたんだ」
「そうだったの・・・、有名人も楽じゃないのね・・・」

キャサリンは彼の境遇に同情をした。
彼の生活は計り知れないが、どこでも注目の的になるというのは、自分には無理だという事は分かる。

だが彼が、キャサリンに出会ってから夜を共にするまで、身分を隠していたという事実は変わらない。
彼はキャサリンがW&M法務事務所の従業員だと気付いていたのに、自分の事を明かさないというのは、誠実ではない。いや、彼女がW&Mの従業員だと、気付いていたのだろうか。

彼にその事を聞きたい。
だが聞くと、今の良好な雰囲気を壊してしまう様な気がする。
聞くのは怖かった。

「ピザのバイト、どうしたの?」
キャサリンはミントティーを口に運んだ後、言った。

「どうって?」
「だって、出張してたら、できないでしょ。休んでるの?」
「・・・あれね」
マックスは、はぁ、と溜め息をついた。
キャサリンは、いつも平然としている彼の様子が変わったことに疑問を覚える。

「辞めたんだ」
「やっぱり、お金持ちの気まぐれって言われても仕方ないんじゃない? そんな簡単に辞めるなんて」
彼の答えに、彼女はつい、言った。

キャサリンは、そんな簡単に辞める事ができるのなら、一夜のアバンチュールをするのに都合が良かったからバイトをしていたんじゃないかと憶測した。
まんまと自分は嵌められたんじゃないか、という疑いが再度、頭をもたげる。

「そう言われると思ったよ。だから言いたくなかったんだ」
マックスはそう言うと、言葉を続けた。
「・・・レジの金が無くなったんだ。・・・それで、犯人は僕じゃないかって、店長に言われてね」
「・・・うそ!」

キャサリンは話の展開に驚いた。
思わず目を見開く。

「まったく、冗談じゃないよ。ちょうど2週間ほど前かな、バイトに行くと店長にスタッフルームに呼ば
 れて、バイトの中で僕が一番新入りだったからって、僕が疑われたんだ。今までこんな大金が無くなっ
 たことは無かったって言われて。あー、思い出すと腹が立つ!」
マックスは当時の事を思い出し、腕組みをすると口をへの字に曲げた。

「幾ら無くなったの?」
「200ドル」
「200ドル! 結構な金額ね」
「まぁね。店長も騒ぐわけだよ。でも、あのヤロウ、おっと失礼、あいつの決めつけには腹が立って、売
 り言葉に買い言葉になって。・・・まさか、君も僕がやったって思ってないよね?」
マックスは言ってはならない言葉を使った事をキャサリン詫びたが、そのまま言葉を続けて、彼女をちらりと見た。

「まさか! あなたがそんな事、する訳ないでしょう。そのぐらいの金額で・・・」
「そうだよ! 200ドルをなぜ僕が盗まなくちゃいけないんだ」
「ピピコムのCEOなのにね」
「そんなことは関係ないよ、 僕は金を盗むなんてことはしない!」
マックスは、彼女からの不本意な評価に怒った。

「もちろんあなたが盗む訳無いって、分かってるわ」
キャサリンは彼を傷つけた事を詫びた。
だが、巨万の富を得ている彼が、レジのお金を盗んだと疑いを掛けられて喧嘩をするなんて、可笑し過ぎる。
くすり、と彼女の顔から笑顔が漏れる。

「・・・君は、僕の不幸を笑っているね?」
マックスは、笑っているキャサリンの様子にムッとしている。
彼女は彼の様子に、笑うのは失礼だと気付いた。

「ごめんなさい、そういうつもりじゃ無いのよ。でも、ピピコムのCEOが200ドルレジから盗ったなん
 て疑いを掛けられて、喧嘩をするなんて・・・プッ」
そう言うと、堪えきれずまた笑い出した。



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